第6話 洗脳、護身
車が滑り込んだのは、とある廃病院。
廃病院といっても、廃墟ではない。
改装工事のための、一時的な空き家らしい。
でも、真祖のヴァンパイアの僕にしても、夜の病院ってのは怖い。
瑠奈、僕とは比べものにならないほど鼻が利く。だって、正体は狼の眷属だからね。
病院に付随するいろいろなニオイを、否応なく感じているんだろう。
お姉さまが、運転手の人に一言なにか言った。
僕たちは、紹介されていないから、この人の正体を知らない。
でも、想像はつくよ。
で、その人、運転席から降りて、そのまま来た道を戻ってどこかに消えていった。
僕は、連れてきた男に、車から降りるように促した。
もう二度と、この男は僕に反抗しない。
意思は強かったけど、所詮は人間のソレだ。真祖のヴァンパイアの圧倒的な力の前には、焚き火で炙られるバターみたいなもんだ。
今回、僕たちへの依頼は、お姉さまを通して来た。
内容は、ぶっちゃけ取引。
僕たちは、互助結社組織の代表を護る。
で、そちらの結社は、公的機関で計画されているうちの団への探索を中止させる。
うまくいけば、ともにめでたしめでたし、だ。
で、この男の身柄は、その互助結社組織に引き渡すことになる。
でもさ、高校生の僕からしたって、そんなの怪しいと思う。
普通ならば、警察に引き渡すべきだ。それなのに、その互助結社組織に引き渡したら、
お姉さまに、「なに考えているのか」って問い詰めたいよ。
一度は聞いたけど、上手く逃げられちゃったんだ。
だからね、僕はためらいなく自分の能力を使った。
つまり、もうこの男は依頼者のことも含めて、どんな秘密も守ることはできない。また、逃げ出そうともしない。
ということは、この男を拷問したり、殺したりする意味はもうないということ。
むしろ、襲われた方からすれば、生き証人としての価値だけが残る。なんといっても、実行犯だからね。生きていてこそ、依頼人が誰かという証言に重みが出る。
また、依頼人側からしては、切実に死んで欲しいだろうけれど、よほど上手く殺さないと依頼したのを自白したのと同じになっちゃう。
僕、どんな意味でも自分に関わった人が死ぬのは嫌だからね。だから、こんな判断をしたんだ。
どうせこの男、何人も殺しているんだろうね。だからと言って、僕がこの男を殺すってのは嫌だ。冗談じゃないよ。
だから、深層心理で僕に支配されたのは、自業自得と思ってもらうしかないし、殺されないためにという僕の判断には感謝して欲しいよ。
ま、感謝するという心の働きも、僕が支配を解かない限り、どこまでできるかわからないけれど。
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