第16話 父さんは準備された人?
呆然としている僕に、瑠奈が声を掛けてきた。
「ちょっとさ、売店で飲み物買ってこよ。
ヨシフミのママにもかなり話してもらって、のどが渇いたと思うし」
僕、曖昧に頷いて、瑠奈と肩を並べる。
「母さん、ちょっとここで待っててね」
って僕の声に、母さん、我に返ったように頷いた。
「ヨシフミさぁ、アンタの考えていることはわかるけど、なんでもう一つ奥まで考えないのよ」
「えっ?」
「きみのパパのモデルが正しいとしたら、ゴムチューブの中と外をつなぐ存在になるヨシフミが生まれるために、そういう因果が組まれていて、きみの両親は犠牲になるって考えているでしょ?」
「うん」
僕は、素直に頷く。
だって、そういうことじゃん。
真祖のヴァンパイアに僕がなることが最初から決まっていたことだとすると、その僕が生まれるにあたって親の代からなんらかの仕込みがあっていいよね。
僕の意思だって、予定されていたものだってことになる。
そして、ゴムチューブ仮説が正しいとしたら、ゴムチューブの中の人の世界の100年なんて、その外から見たら一瞬過ぎてないのと一緒。まして、ゴムチューブの外の存在には因果律が通用しない。だって、時間を遡れるんだもの。
つまりさ、僕がヴァンパイアになりたがるように、そう思考が行くように、父さんが配された。父さんは、将来持つ息子が「不死のヴァンパイアになりたい」と考えるよう無意識に刷り込むために、若い頃に短命の悲惨さを味わった。
父さんが僕が生まれてから性格が変わったっていうのも、きっと厳密には違う。僕が父さんの無意識を受け継いだから、父さんは解放されたんだ。そもそもだけど、僕が生まれたその日に劇的に性格が変わるなんて、変じゃないかな?
「じゃあさ、アンタが生まれなかったら、どうなっていたと思うのよ?」
……どっちなんだろう?
瑠奈は、僕をの心を救おうとしてくれているんだろうか?
それとも、事象として僕の考えが間違っていると言いたいのだろうか?
「僕は産まれるのさ。
父さんと母さんだけが悲惨な目に会ったわけじゃない。
きっと……、同じような経験をした男女が何組もいたんだ。
その中には失敗して彼女を死なせてしまった例もあったろうし、彼女を救えても結婚まで行けなかった例もあったろうし、結婚しても子供が産まれなかったってパターンだってありうる。子供が生まれても、ヴァンパイアになりたがらなかったってことだってありうるし。
ゴムチューブを自然と同じものと考えるのであれば、自然は必ずバックアップを用意しているからね。僕という一人を生み出すために、そこそこの数のバックアップの男女がいたはずなんだよ」
僕は一気に話した。そして、瑠奈の顔を見ながら話し続けた。
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