第15話 父さんも、母さんも


 母さんは続ける。

「そんな危なっかしい人、放っとけないでしょ。

 だから、結婚までしたけど……。

 さっきも話したけど、ヨシフミが生まれてからは、割りと普通の人になったから安心していたんだけどね……」

「だけどね?」

 瑠奈がおうむ返しに繰り返す。


「今回の病気で戻っちゃったわ。

 生きようって気が見えない。

 死ぬなら死ぬでいいやって感じ。なんなんなのかな?」

 自分が死ぬ時期を明確に知ってしまうと、人はそんなふうにしか生きられなくなるのかもしれない。

 でも……。僕が生まれて、父さんは一時でも自分の運命ってのを忘れられたのか……。



 運命を知る、未来を覗いてしまう。

 それは才能なんだろう。

 それと、動物にまで擦り寄られていた母さん。

 きっと、生贄の匂いがしたんだ。


 で……。

 母さんが生贄だったってのを考えると、わからないことがある。

 生贄はなにかを成就させるために、なにかに捧げられる存在だ。

 母さんは、なんの代償に、なにに捧げられる存在だったんだろう。

 そして、それは父さんが介入することで、結果的に得られる生贄の数が倍になった。数十年待つだけで、生贄の数が倍になるならこれは取引に乗るよね。しかも、嫌がることなく、自分から贄になりに来てくれるんだから。


 そこまで考えて……。

 次に僕の頭に浮かんだのは、人柱って言葉だった。

 その意味って、堤防や城を作る際に、それらが永続的に存在することを祈って人を生き埋めにするんだったはず。

 結局、神様や悪魔に捧げられる生贄にせよ、人柱にせよ、つまりは人の命という最大に価値があるものを差し出す取引なんだ。


 と、ここまで考えたところで、瑠奈と視線がぶつかった。

 ん?

 なんで、瑠奈、僕をそんな目で見る?

 それより、口がなめらかに動いて何でも話す気になっている母さんからもっと情報を引き出すんだ。



 僕は考え続ける。

 母さんは予定通りだったら、二十歳前に僕を産めないまま人柱として死んでいた。父さんの介入によって母さんは寿命が伸び、結果として僕は生まれたけど、結局は父さんも母さんも人柱だ。


 そこまで考えて……。

 ……ひょっとして、僕か?

 僕という存在を作り出すために、父さんと母さんは……。


 そんな可能性を思いついたことが、僕をいきなり叩きのめした。

 僕がヴァンパイアになることがずーっと昔から決まっていて、父さんと母さんは時間の流れがそうなるように、ヴァンパイアを生み出すように宿命さだめられていたら……。


 僕がヴァンパイアになったからこそ、父さんと母さんは歴史の必然として今死ぬんじゃ?


 ああ、今の瑠奈の目つき、それに気がついたからなんだ。

 僕は……、僕は……。

 

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