第9話 叱られるヴァンパイア


「で、ヨシフミ、そういうとこだぞ」

 笙香しょうかの顔が引っ込むと、瑠奈るいなが言う。


「そういうとこって、どんなとこ?」

「逃げ道を作ってあげられないとこよ。

 いつも、逆のことばかりしてるんだから。

 自覚してる?」

 逃げ道?

 なんのこと?


「ごめん、言っていることの意味がわからない」

「……歳の差があると、こんなことも教えないといけないのかなぁ。

 感謝しなさい、ヨシフミ。

 同い年の同級生からだったら、絶対教えてもらえないことだから。

 女子と話すときは、逃げ道を作ってあげるのよ。

 いい?」

「……ごめん、その『逃げ道』がわからない」

 もういいや、いくら怒られても。

 瑠奈がなにを言いたいのか、僕にはわからないんだよ。


「女子に、自分に対する言い訳を作ってあげるの。

 『しかたなく、口説かれてあげた』っていうアリバイが必要なのよ。

 口説かれたら、すぐにほいほい付いて行ったとは取られたくないの。

 勿体ぶってるって思うだろうけど、女子には必要な儀式なの。

 さっきもそう。

『私の身体だけあればいいんだ?』って言われたら、冗談でも『だって、可愛いし』なんて言っゃダメなんだよ。『身体だけが目当てだ』って言っているようなものでしょう?

 『そんなことないよ』って言わないと。

 女子の側からは、『ヨシフミの誠実さに打たれた』みたいな形を作るのよ。

 で、コツとしては、内面を褒めた上で外見も褒めるのよ。でね、きちんと両方をセットにしないとね。

 内面ばかり褒めていると、『どーせどーせ私はきれいじゃない』っていじけだすからね」

 ……なるほど。


「そういうアプローチじゃない方法もあるけど。今のヨシフミには、そして今のヨシフミの周りにいる女子たちには早すぎる。もう少し経験を積んでからでいい」

「あ、はい」

 なんだろ、僕、怒られているんじゃなくて、教育されて、叱られているのかな?


「……あくまで好奇心で聞くんだけど、外見に褒めようがなかったら、どうするの?」

 これ、怒られているのか叱られているのかの、違いを見極めるための質問。

「大丈夫。

 必ず1つ2つはあるから。

 見つからないとしたら、そもそも褒める気がないからよ。

 それはもう長く見ているけど、人はね、何歳になっても可愛いところって1つくらいは残っているもんなのよ」

 そうか……、260年も生きた上での意見と考えると、なんかすごい説得力だ。

 そして、怒られるかどうかのぎりぎりの質問に答えてくれるって、やっぱり叱られているのかな。

 で、育てられているとしたら、逆光源氏?


「じゃあ、瑠奈さんの内面も、可愛いところが1つくらい残っているということ?」

 思いっきり、冗談めかして言ってみる。

 だって、いつも怖いし。

 それに、もう一歩、踏み込んでみたかったし。これでまた叱られるなら、それはそれでいろいろと瑠奈の考えていることわかるし。


 正体を知る前は、いつも予想を裏切られる面白い人ってイメージだったけど、今の僕は、それが中2の僕には予想もつかない経験量とそれによる判断だって知っている。

 たぶん、内面的な話で言うなら、僕はガキ過ぎて相手にされない対象だってわかっているもん。

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