第8話 ヴァンパイアの覚悟


「単なる孤独感でしょーよ」

 うう、瑠奈るいな鋭い。

 それとも、僕の表情、そんなにわかりやすく感情が出ていたかな。


「瑠奈さんもそういうの、感じてるよね?」

「別に、なにも」

 つ、強え。

 それで終わりかよっ。

 でも、薄暗い中、2人でこんな感じで話していると、このエリアの外にはなにもない完結した世界っていうような気がしてくるよね。

 もっとも、定期的に闖入者がいるんだけど。

 で、好きに脅かして追い出していいってのがまた、普通ならありえない状況設定だよ。


「ヨシフミ。

 そもそもアンタ、今は独りじゃないじゃん」

「えっ、そうは言われても……、くわっ」

 3年生の男子が、僕の赤い目を見て逃げて行った。


「だって、昨日だってあんなに怒られたし……」

「……アンタね、人の話はよく聞きなさい。

 まったく、いつもいつも、もー」

「『アンタに呼び捨ての名前呼びを許してない』って言われたけど……」

「人前でそんなの、許すわけないでしょっ!

 うばっ」

 今度のは、同じ学年の2組の男子だったかな、ほとんど四つん這いで逃げて行った。


 なんか、交互に人を脅しながらの会話って、なかなかないシチュエーションだよね。


「それ以外に、なんか僕、言われていたっけ?」

「私はね、『じゃ、そういうことにしてあげるけど、覚悟しとくのよ』って言ったの。

 忘れた?」

「えっ!? そっち?

 きっ!」

 3年生の女子の2人連れが、悲鳴を上げて逃げて行った。

 でも、今の僕の赤い目、ちょっとテレていたかも。


「それ、有効だったの!?

 そういうことでいいの!?」

「お試し期間でね。

 でも、覚悟しとくのよ。

 昨日は逃してあげたけど、本気になって肉弾戦したら、コウモリとジェヴォーダンの獣、どっちが強いかはわかるでしょう?」

「総合戦したら、僕のほうが強いけど……」

「アンタが本気になって、私の血を吸って私に勝ったら、その時から私はいなくなるのよ。わかってる?

 んばばばっ」

 1年生のカップルが逃げて行った。

 生意気だっ! 1年生で彼女連れでお化け屋敷に来るなんて。

 僕の番だったら、もっと脅かしてたのに。


「僕が瑠奈さんの血を吸っても、いなくはならないよね。

 従順になるだろうけど」

「ふーん、私の身体だけあればいいんだ?」

「えっ、だって、可愛いし」

「ヨシフミっ!! 覚悟っ!」

「ごめんっ!」

 ぶわっと、殺気が迸った。


 で、ノックの音。

 笙香しょうかが顔を覗かせる。

「アンタらね、列を作って待っていた人たちが、なんか今、いっせいに逃げ出しちゃったよ。

 あのさ、痴話喧嘩もホドホドにしておいてくれないかな?

 言っとくけど、迷惑だから」


 しれっと、言い放ってくれるな、笙香。

 瑠奈に睨まれて、僕、「ごめんなさい」って謝ったよ。

 ああ、今のは僕が悪かったけど、ちょっとした冗談くらい、言ったっていいじゃん。

 もう、なんで、こんな殺気満々な女子に好きとか言っちゃっかな、僕。

 だって、今までは、ちょっと変わっていて、でも不思議ちゃんじゃない女子だった。そして、単純に可愛かったんだよ。

 今は、重厚な独裁者だけど。

 で、やっぱり今の、許されないレベルだったのかな?


 でもって、ウチのクラス、笙香を始めとして、ヴァンパイアの恐怖とか、ジェヴォーダンの獣に対する恐怖とか、免疫ついてきてないか?

 困ったもんだ。

 あまりに鈍感力を鍛えちゃうと、危ない夜道を避けるとかできなくなるぞー。

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