第18話 転進、号泣
トイレもペアで行くってのは、相互監視なんだろうね。
これだけの洗脳をしてまだ足らないって、こんないい方はないかもだけど、よほど上手く行かなかった経験があるのかもね。ともかく、この連中から話を聞き出すのは無理だ。
洗脳されている上に、僕が洗脳を上書きすることもできるだろうけど、そもそも引き出せる情報が少なそうだ。
ここにいても、壁しか見ていないんだからさ。
でもって、書いてあるものが読めず、敵同士の会話もないとなると、もう偵察できることはない。
ここまで入り込んで、ノートパソコンの中身まで見て、それなのにここまで収穫が乏しいのはがっかりだけど、まだ僕の観察が正しいかどうかの確認はできる。
つまり、車のトランクに置いてきた殺し屋の男からまだなにも聞いていない。
でも、顔濃いし、同じような職業だし、なにも知らないってことはないんじゃないかな。
そこで得られた情報と、僕の今見たことから考えた推測が一致すれば、いくらかはモノが言える推測になるはずだ。
さて、撤収だけど、なにか品物数個なら身体と一緒に霧化して持ち出せる。
一瞬悩んだけど……。
水パイプを持ち出せば、コイツラが人を殺すような作戦に出かけられなくなる。
でも、こんなの日本では珍しくても、2度と買えないような代物じゃない。
つまり単なる嫌がらせをしただけで、僕という存在だけを知られることになってしまう。
日本での入手が難しいってなれば、長い棒みたいな銃のほうが難しいだろうけど、それについても同じだ。
この教団で2度と手に入らないものってことはないよね。
それなのに、僕の存在だけは知られちゃう。
あえて言うならパソコンだけど、それもどうせなら徹底的に観察してパスワードとか全部抜いてからでないとあまり意味がない気がする。
それにしても、なんか消化不良な結果だなぁ。
僕、建物の外に出て、元の車のところに戻った。
身体を霧化してトランクに入り、殺し屋の男とともに再び霧化して出てくる。
でもって、話を聞こう。
その結果によっては、もう一度潜入しよう。
で、僕、霧化して車のトランクに戻って、実体化して。
目が痛いぞ。
つーんとする。
なんだろうって、この殺し屋の男、粗相していた。
ってか、僕も悪かったのかもしれない。
捕まえてから、一度もトイレに連れて行かなかった。
だからって、この狭い空間で……。
で、この湿っぽい男に抱きつかないと、再度の霧化ができない。
なんか、なんかさ、悲しくなってきたよ、僕。
お姉さまと瑠奈も無事かどうかわからないし、強烈におしっこ臭い殺し屋に抱きつかないといけないし、そもそも抱きつかなければこのままこの臭いの中にいなきゃならない。
偵察だってうまく行かなかった。つまりなに一つ……。
で、車から引っ張り出して話を聞くにしても……。
一度海に放り込んで、じゃぶじゃぶしちゃおうか。
なんか、情けなくなって、涙でてきた。臭いがきついせいだけじゃない。
最強の真祖のヴァンパイアでも、人を下僕にしたあとはこんなことまで考えなきゃならないのか。
そして瑠奈ぁ、本当に生きているんたろうな?
僕、ついに耐えきれなくなって、泣いてしまったよ。
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