第3話 スルーされるヴァンパイア


 これに憤慨しないって、そんな大人気は僕にはない。

 僕は思わず叫んでいた。

「父さんっ、話を聞くと言ったろ!?」

「まぁまぁ、落ち着け。

 わかったから、とりあえず話を聞こう」

 その言葉と裏腹に、父さん、母さんに目配せする。


 ヴァンパイアの感覚は鋭敏だ。

 母さんが部屋から出ていきながら、自分の携帯を握るのがわかった。

 まったくもう、冗談じゃない。


「母さん、父さんと一緒に話を聞いてよ!」

「わかった、わかった。

 ほら、落ち着け」

 父さんの言葉に合わせて、母さんもテーブルに着く。

 とりあえずは、電話を掛けられなくて済むかな、救急に。緑の救急車って、本当に来るのかだけは知りたいけどね。もっとも、乗せられるのが自分じゃシャレにならないけれど。


「僕、昔からいろいろと調べて、ついに吸血鬼、ヴァンパイアになる方法を再発見した。

 つまり、僕は血を吸われたのではなくて、真祖のヴァンパイアになったんだ」

「そーかそーか、それは良かったな」

 ……なんだよ、その言い方。「はい」と一緒で、「そうか」は一度っ!

 僕はひどく傷ついた。

 でも、話さないわけにもいかない。


「だから、僕はもう歳を取らないし、食事もしない。

 でも、誰かを襲って血を吸わなくても、薔薇の花の精気を吸うことでも生きていける。日光の下は大変だけど、まぁ、なんとか耐えられはするだろう。

 夜になれば、コウモリになって空を飛ぶこともできる。

 怪力も持っているし、世界の王になるほどの力を僕の身体は秘めているんだ」

「ふーん。

 じゃ、わかったから勉強しなさい」

 とこれは母さんの反応。


 なんだ、そのスルー・スキルは?

 僕はもう一度、ひどく傷ついた。

 でも、それでも、やっぱり話さないわけにもいかない。

 ここで止めたら、単なる厨二病の告白だ。


「信じてくれよ。

 今までこんなコト、言ったこと無かったろ。

 このまま家を出てもいいけど、そんな家出同然で父さん、母さんと別れるのもどうかと思って、さ」

 僕なりの思いを込めて、必死に話す。


 父さん、深々とため息をついた。

「ヨシフミ、お前学校でイジメられているのか?」

「そうよ、ヨシフミ。

 無理に学校に行って、ヨシフミが自殺するなんてことになったら、母さんは耐えられないわ」

 僕は、内心、かっくんってなった。


 そこに追撃。

「父さんも母さんも、なにがあってもお前の味方だからな」

「ヨシフミ、なんでも話しなさいよ。

 校長でも、教育委員会でも、どこへだって直談判に行くからね」

 ありがとう。

 いや、それは本当にありがたい。

 ありがたいのは、ありがたいけどさ……。


 だめだ、コレ。

 日本語は通じているはずなのに、話の内容がこれでもかってくらい、まったく伝わらないっ。

 コレじゃ、本当に単なる厨二病の告白だぞ。

 もう少し頑張れ、僕。

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