第2話 ヴァンパイアの家族


「あんたね、帰ってきたのなら、帰ってきたって言いなさいよ。

 まったくもう、中学生なのに泊まりで遊び回ってばかりいて、帰ってきても『ただいま』もなし、ご飯も食べずに寝ているし、夏休みの宿題はできてんのっ?」

 うっわー、酷いな。

 ヴァンパイアたる僕に、何たる言いぐさだ。


「夏休みの宿題など、もうする必要はない。

 僕にはもう、ご飯ももういらないぞ。

 それに……」

 と、ここまで言ったところで、強引に掛け布団が引っ剥がされた。


「この馬鹿息子!

 中2で本当に厨二病に罹るバカが、うちの息子だとはね。

 さっさと起きなさい!」

 うっわー、酷いな。

 この世界の王たる僕に、何たる言いぐさだ。

 改めてそう思うよ。


 でも、次は、一人称、「我」とかにしようかなー。王様なら、「余」かな?


「いや、だから、もう、余はヴァンパイアであり……」

「お父さーん、お父さーん。

 ヨシフミが変ー!」

「わかった、わかったから、起きるから」

 ちっ、今日は土曜日かよ。

 まさか、両親が揃って家にいるとはね。


 二人がかりで責められたら、余計面倒くさい。

 いつもなら、共働きで出かけちゃうから、問題なく寝坊できていたはずなのに。

 いや、寝坊じゃないな、昼間は寝ているしかないのがヴァンパイアだ。



 家の中でも日が差していないところを選んで歩き、それでも全身がぴりぴりするのに耐えながら居間にたどり着く。

「朝ご飯、食べちゃいなさい」

「そう言われても……」

「ヨシフミ、お前な、うだうだ言ってないで、早く食べなさい」

と、これは父さん。


「今日はな、父さんが目玉焼きを焼いたんだ。

 美味いぞ。

 冷めるから急げ」

 まぁ、たしかに父さんの目玉焼きは絶品だ。

 白身の端はかりっと、黄身はどこまでも甘く温かくなめらかな半熟。

 その黄身のてっぺんに箸で穴を開け、醤油を流し込み、ご飯の上に乗せてわしわしと食べる。

 これはもう、本能に訴えかけるシンプルな美味しさなんだよ。


 でもさ、箸持って、目玉焼き丼を食べるヴァンパイアの絵柄って、どうよ?

 今ひとつ美しくないよな。


「いや、だから話を聞けって!」

「思春期だもんな、悩みはあるよな。

 うん、父さんはヨシフミの悩み、聞くぞ。

 でも、ほら、温かいうちに目玉焼きを」

 ……その対応とか、考えとか、言い方とか、優先順位とか、絶対ことごとく間違ってる。


 だからって、話さないわけにはいかない。

 あなたたちの息子に向ける認識は、今や大きく間違っているってことを。

 毎朝毎朝、こんな感じで叩き起こされていたら、ヴァンパイアとしては困るからね、うん。

 食べないのに焼かれる、目玉焼きにも申し訳がないし。


 とやかく言い繕っても仕方ない。

 単刀直入に言ってしまおう。

「僕、調べて、それを実行して、ついにヴァンパイアになった」

「母さん、電話しろ。

 救急車だ。

 悪いところは頭だって、忘れず伝えるんだぞ」

 父さん、そう言い放った。


 あ、アンタ、父親とは言え、それはないだろっ!?

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