第4話 ヴァンパイア、連呼さる
「頼むよ、きちんと話を聞いてくれ。
僕は多少イジられても、イジメられてなんかない。これは、完全に嘘じゃない。
夜になったら、コウモリに変身して見せるから。
そうしたら信じてくれるだろう?」
そうだ、あからさまに僕の力を見せつけてやるんだ。
そうすれば、父さんも母さんも仕方なくだって、僕の話も聞くだろう。
「だめだ、ヨシフミ。
父さんたちは、今日は結婚記念日だからな。
2人で映画を見てからフランス料理を食べるんだ。レストランも予約してある。
お前は留守番だ。
だって、予約する時にいなかったし、いつ帰ってくるかわからなかったし、連絡も取れなかったからな」
「そ、それは酷いよ、父さん」
なんか、反射的にそう言葉がでたのは、人間だった時の名残かもしれない。
それに、僕という存在が、家族としてもこの世界の王たるヴァンパイアとしても、あまりにないがしろにされている。
「そうよ、真祖のヴァンパイアのヨシフミ。
だから、私たちは、お前がコウモリになるのを見ることはできないの。
わかった? 真祖のヴァンパイアのヨシフミ」
母さんの言葉は、ウニのようにトゲだらけだ。
そのトゲ一本一本が僕の心を抉る。
そう連呼されると、僕は僕の名前ごとヴァンパイアが大嫌いになりそうだ。
厨二病対策なら効くだろうけど、僕のは動機はともかく結果は厨二病じゃない。
で、その結果については、話しても話しても話が伝わらないんだ。
「ということで、目玉焼きを食べなさい」
と父さん。
僕は、深々たとため息を吐き、がっくりと肩を落とした。
これはだめだ……。
吸血鬼でも、物が食べられないわけではない。
美味しいと感じはしないけど。
あれほど美味しいと思っていた父さんの目玉焼き丼が、味のしないゴムの板を噛んでいるようだ。
味気ないにもほどがある。
ため息を吐きながら、どうやら食べきった僕に、母さんの追撃が始まった。
「真祖のヴァンパイアのヨシフミ。
『このまま家を出て』なんて言ってたけど、アンタ、どこへ行くつもりよ?
具体的な計画はあるの?」
「僕はもう、人の常識では測れない力がある。
だから、どうにでもなる」
僕は、そう言い放った。
「ふーん。
じゃ、その力があれば、服もどこからか生えてくるのね?
汚れたら風呂も入らないといけないけど、お湯も沸いてくるの?
それは便利ねぇ、真祖のヴァンパイアのヨシフミ」
えっ、服? 風呂?
「まさか、真祖のヴァンパイアのヨシフミ様はうちを出て、仕送りが欲しいなんて言い出すんでしょうかね?
世界の王なのに?」
「……うるさいっ!」
「逆ギレですか?」
「……」
た、たしかにお金はないけれどっ!
ぼ、ぼぼ、ぼ、僕をなんだと思っているんだっ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます