私は獣の娘
第1話 獣の独白
自分の生きてきた経緯を、同じ種族ではない誰かに話すことがあるなんて思っていなかった。
でも、種族は違えども、共に人ならざる者が同じ生活圏にいる以上、不要な争いの芽は摘んでおきたい。
本当は、今回の問題が、あとくされなく根が取り切れていたら、身を隠しても良かった。
だけど、上手く行かなかった。
ま、よくあること。
こうなると、このヨシフミという子をいくらかは守ってやらないと、だ。
ヨシフミを怯えさせたくないので、いい加減なことを言ってきたところもあるけど、実はこの問題は根が深い。
今回はまぁ、ヨシフミに救われたところもある。だから、特別だ。
ヨシフミも、人類とその周囲にいる者たちについて知っておいた方がいいだろうし。
それに、この子、自力で真祖のヴァンパイアになった挙げ句、私に好意を示している。自力で真祖のヴァンパイアになった人間なんて、1,000年に1人か2人と聞いている。
相当の才能か相当の運か。
そして、それを証明するように、それからの成長ぶりはなかなかのものだ。
まぁ、私も、この子に救いを求めているんだろうね。
だってもう、何人の親しい人たちを見送っただろう?
誰かを好きになるなんて感情も、すべて虚しい。
人という生き物は、あまりに脆く短命で、愚かしく悲しい。
母と別れてから同族にも会えていない中で、この子はこれから先、私を孤独から救ってくれる唯一の存在かもしれない。
おそらく私は、2,000年ほどの寿命を持つだろう。
この子は、最強に分類される真祖のヴァンパイアだ。おそらく控えめに見積もっても10,000年は生きるだろう。そして、適切に若返りができれば、それこそ永遠にだ。
つまり、私が死ぬまで付き合ったとしても、この子には8,000年という過酷な孤独が待っている。だから、少しはこの子の将来も考えてあげなければ可哀相だ。
私の経験が、この子の役に立つように話そう。そしていつか、ヨシフミが他の、私たちのような存在に巡り会えればいいのだけれど。
私が、この子に対して、この先どのような感情を持って生きていくことになるのかはわからない。
先のことを考えれば不安ばかりだ。
でも、だからこそ、とりあえずは話す。
ヨシフミの真っ直ぐな感情に対して、せめてもの私の気持ちとして情報を返すのだ。
すべてはそこからだろうな。
ヨシフミが、私の話に引いてしてしまったら……。
まぁ、最初の考えのとおり、身を隠したっていいかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます