第23話 ヴァンパイアがもらった返事


「僕とつきあってもらえますか?」

 必死の思いで告白。

 瑠奈の返事は短かった。


「やだ」


 あまりにも短っ!

 なんだ、その食い気味なタイミング。

 振られ最短記録みたいのがあったら、エントリーできそうだよ。

 僕、振られた実感とか、悲しみとかより、呆然って方が先に来ている。


「ヨシフミ、少なくとも、今はね。

 だって、アンタ、ヴァンパイアになって何日目?

 その間にも、別人みたいに変わっているじゃん。性格も、考え方も、学校での立ち位置も。

 今はともかく、半年後、モンスター級に嫌な奴になっているかもしれないじゃん。

 アンタに初めてのキスを奪われて、さらにいろいろと捧げて、そのあとにアンタがこの先本当に嫌なヤツになるかもって考えたら、怖くて付き合えないよ。

 せめて、100年くらいは観察させて」

 100年!?

 なんだ、その数字?


「せめて、1年にならない?」

「99%引きって、ヨシフミ、神をも恐れぬ、すごい値引き交渉だね」

「だって僕、14年しか生きてない。

 で、100年待てと言われても、想像できないんだよ」

 そりゃ、力説するよ、僕だって。


「ねぇ、ヨシフミ。

 少なくとも、今回の件で禍根の根は取り切れなかった。

 きっとまた、どこかで芽を出すよ。

 でも、少なくとも、荒川のバカはこの問題から開放されたと思う。もう利用されることはないと思うよ。

 そういう意味では、今回のは成功と言っていいかもね」

「うん、そうだね。

 根を残してしまったことは、ごめんなさい」

 そりゃ、謝るよ。


 まだ僕、瑠奈ほど深く考えることもできないってのを痛感したし、ヴァンパイアという特性以外では、瑠奈に敵わないもん。

 そしたら、瑠奈、僕の顔をしげしげと見た。


「ヨシフミ。

 アンタ、思っていたより素直だね。

 そのまんま、まっすぐ好きだって言ってくれるのは嬉しい。

 でもさ、アンタ、私のことをなにも知らないよね。

 先のこと以前に、せめて私がどう生きてきたのかの過去を聞いて、それから、それでもまだ同じことを言えるかを判断しても遅くないんじゃないかな……」

 なんだろ、瑠奈の声、急にもの錆びて寂寂としたものになった。


 歳をとった女性の声ってわけじゃない。声質自体は、お婆さんみたいな声じゃないんだ。

 でも、いろいろな経験を積んで、きゃいきゃい喋ることもなくなってしまった女の人の声……。

 学校で、笙香しょうかと一緒にいるときは、こんな声出したことはなかったよね。

 これが、瑠奈の素の声だとしたら、どんなものを見て、どんなふうに生きて、今ここにいるんだろう?


 夜明けまで、まだ3時間近くある。

 明日も学校。

 でも、どうせ僕は、居眠り魔としての評価を確立している。明日また居眠りが出たって、目立つわけじゃないよ。

 それより、時間が許す限り、ここで瑠奈について聞いておきたい。


 それは、瑠奈とつきあうとかの話以前に、僕がこれからどう生きていくかについても、大きな指針になるはずだからね。

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