第9話 ヴァンパイアのスクールカースト


 翌日。

 朝一番に、笙香しょうかから、僕と瑠奈るいなと荒川に報告があった。

「さすがに1日じゃ、5教科全部は無理。

 でも、数学と理科は押さえた。

 社会は担任だからね、ちょろい。

 英語はまだ良くわからないけど、目安は付いてる。

 国語は今日調べる。

 で、試験前日までの授業も油断がならないから、内容はまだ変わるけど、とりあえずはこれ」


 ……すげぇな、コレ。

 書かれたものが、綿密過ぎる。テストの山を張るってのは、こうにするのか。

 感動すら覚えるよ。

 今までの僕の試験の予想なんて、粗雑に過ぎてお話にならないよ。

 出るであろうものの見込みも凄いけど、それ以上にこれは絶対でないってのか凄い。


 僕、前回の実力テストで1位をとったけど、中間テストでは無理だったかもしれない。

 先生の作る問題って、業者テストの問題に比べて、こんなに偏るもんなんだね。

 想定外ってのにも程があるのが、2つ3つある。


 荒川、1つ頷いて言う。

「男子は任せろ」

 瑠奈も頷く。

「わかった。

 女子はカバーする」


 僕は……。

「ヨシフミは、三軍の面倒を見ろ」

 荒川、お前、今なんて言った?

「三軍でも、やる気があれば俺が面倒見る。

 諦めちまっている奴は、手に負えない。

 ヨシフミ、お前なら、そういう奴に活を入れられるだろ?」


 三軍って、スクールカーストの用語だよね。

 で、荒川にはスクールカーストが見えているらしいし、自分は一軍だと思っているみたいだ。

 荒川らしいっちゃ、らしいなぁ。


 僕、あんまり自覚したこともなかったけど……。

 あれ!?

 ひょっとしなくても、僕も三軍じゃないかな?

 少なくとも、夏休みに入る前までは、確実に「不思議ちゃん」で、「ぼっち」に近くて、いじめられることはなくてもいじられて……。


 ずどーん。

 僕、一瞬で落ち込みすぎて、膝も床もなくなっちゃったかと思った。

 僕自身には成算は見えていても、ヴァンパイア関係の文献を読み漁っている僕は、周りからは絶対に「不思議ちゃん」に見えてたはずだ。

 で、結果的に「ぼっち」にも近かったし、、荒川は僕ならなんとかできると言っているんだ。


 今になってわかる。

 前に、リレーのアンカーを桜井に譲られたときの会話だ。

『ヨシフミ、夏休みが終わって、厨二病デビューか?』

『ああ、夏休みの間、頑張ったからな』

『そか。

 リレー、本当ならば、俺がアンカーなんだろうけど、譲ってやるよ。

 広言できるほど頑張ったんならスゲーからな。ま、ガンバレ」

『ああ』


 これ、可哀想な子を表舞台に立たせてやろうって、桜井の優しさだったんだ。


 そこに思い至って、僕、さっきの衝撃でなくなった膝も取り返せないままにめまいを覚えた。

 もうぐにゃぐにゃだよ。

 僕、初めて、クラスの中での自分の立ち位置を理解したよ。



 スクールカーストなんて発想自体が、厭らしいものだと僕は思ってる。

 だから、一軍だの何だのに、誰かを当てはめるなんて考えたこともなかった。


 だけどさ、上下関係ではなくても、似た者同士の群れってのはどうしてもクラス内にある。その中で、他者に理解されにくい群れってのは確かにあるし、群れ以前に孤立しているヤツもいる。


 そか、思い出してみれば、ヴァンパイアになってすぐ、体育の片山先生に恫喝されるみたいに怒られて、その時に話しかけてきた連中はここんところ僕の周りにいない。ずっと変わらない距離感だったのは、瑠奈だけだ。

 もっとも、瑠奈からしてみたら、「スクールカーストの一軍も三軍も、共に価値がない」って思っているんだろうなぁ。

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