第8話 ヴァンパイアの父


 父さん、びっくりしている僕に、逆にびっくりしたみたい。

「なんだ、ヨシフミ、干渉して欲しかったのか?」

「いや、そんなつもりで聞き返したわけじゃないよ」

「じゃあ、好きにしろ」

 突き放すような、父さんの言葉。

 真意がつかめない。


 父さん、そのままドアを閉めて居間に戻っちゃいそうだったので、思わず引き止めた。

「待ってよ。

 母さん、父さんにいろいろ言ってたんだよね?」

「言ってたぞ。

 だけどな、俺は中学で、1度も1位の成績を取ったことはない。

 俺がとやかく言うのは、現役の時に関脇止まりの奴が現役の横綱に、取り口について文句を言うようなものだ。

 お前は、俺を超えた。

 だから、少なくとも勉強に関しては、お前の判断を尊重する」


 えーっ、いいのかそれで?

「あの、父さん、本当に、そういうことなの?」

「とりあえず、、そういうことでいい。

 母さんには、父さんから話しておく。

 あと……。

 そうだな、ヨシフミ、父さんの言ったことを忘れるな」

 えっ?

 なんの話? いつの話?


 って、ヴァンパイアになってすぐの話かな?

 僕にはそれしか思いつけない。

「詳細は話せないが、お前は独りではないからな」

「なにかあったら、父さんに相談するんだぞ」

 たしか、そんなことを言われたんだった。


 えーっと、まさか意味があったの、ソレ?

 父さんがカッコつけただけかと思っていた。


「ヨシフミ、お前、今、とても失礼なこと考えているだろ?

 しげしげと、人のこと、疑わしげに見やがって」

「えっ、いや、そんなことない。

 父さん、ありがとう」

「俺だって、なにもしないで歳を重ねてきたわけじゃない」

「はい」

 思わず、素直に返事しちゃったよ。


「ただな、『二度と飯を食わない』なんて言うと、母さん悲しむからな。

 母さんにはとりなしておくけど、そういうのはもう少し考えて言ってくれ。

 短い時間だ」

 ぱたん。

 音を立ててドアが閉まった。


 今の、なに?

 短い時間って、なに?

 僕は激しく混乱した。

 まさか、だけど……。

 僕が真祖のヴァンパイアになったって話したとき、あれほど僕をバカにしたのにさ。今は、僕がヴァンパイアだってこと、信じてくれているのかな?

 で、僕の寿命のことも気がついているのかな?


 そして、父さんも今日の担任の先生も、僕の周りにいる人たち、みんなそれぞれに考えたり手を打ったりしていることがあるんだと思って、ちょっと怖くなったよ。


 だって、国内だけでも、1億以上のそういった思惑が渦巻いているんだよ。

 僕は真祖のヴァンパイアだ。

 世界の王にもなれるって、そんな強大な資質を持っているはずだ。

 となれば、70億を超える思惑をも、考慮できないといけないんだよね。


 もっともっと修行しないと僕、自分の周囲の人のことすら理解できないよ。

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