第3話 抜き打ちチェック vs ヴァンパイア


 文化祭前日。

 他のクラスは、大車輪で準備をしている中、うちにクラスはもうホント、のほほんとしたものだ。

 教室を3つに分けて、真ん中が展示、両端が和風洋風のホラー・エリア。

 これも、展示が中心って言い逃れるために真ん中配置なんだけど、今日はいい語り場になっている。


 和風の幽霊役の2人のメイクも試行錯誤が終わって、みんなできゃあきゃあ言いながらライティングの調整をして、怖がったり笑ったりしている。

 展示準備も終わっていて、なかなか読ませる感じになっている。

 これはもう、担任の先生のおかげってのが大きいよ。

 やっぱり味方につけて、正解だったよね。


 で……。

 洋風ホラーの、僕と瑠奈るいなの方が大丈夫かって話になった。

 だって、掛けた手間も人数も、和風の方とは桁違いに少ないからね。

「当日のお楽しみ」って逃げ回っていたんだけれど……。

 逃げられなくなっちゃった。


 というのは、学年主任の川本先生がチェックに来た。

 で、お化け屋敷だったら悪くて中止、良くても手直しさせるぞって。

 それもタチが悪いのはさ、ウチの担任がいない時間を狙ってきたんだよね。きっと、頭ごなしにやるつもりで来たんだと思うよ。

 この段階で、僕たち、相当にムカついていた。


 特にさ、和風ホラーの方はむちゃくちゃ手間ひまかけたからね。手直しだってしたくない。


「聡太、桜井っ!」

 小声て2人を呼ぶ。

 笙香しょうかは今回は使えない。中間試験で、もう、相当に警戒されているはずだからね。

「展示をまず見せろ。

 そこで時間を稼いで、僕たちの方のエリアに入れて。

 和風の方は見せなくて済むように、そこで帰ってもらうから」

「そんなことできるのか?」

 と、心配そうに桜井が聞く。


 渾身の「桜井家の墓」を作ったのは桜井だ。コレを、一番無駄にしたくないのは、本人のはずだ。

 渾身すぎて、「当日は、このダンボールの墓の中に入っていたい」とか言い出して、やめさせるのが大変だったんだ。

「話している時間なんかない。

 すぐ説明始めて」

「わかった」

 本郷がそう応えてくれて、川本先生に展示の説明を始める。


 こっちは一番安心なんだよ。

 ウチの担任、さすがに文句を言われないだけの文化的な展示にしてくれているからね。

 で、僕は、石の壁を模造紙に描いただけの、暗いエリアの前で待機する。

 瑠奈は、先に入っている。


 ものの十分もしないうちに、展示をチェックし終えた川本先生がやってきた。

「展示はいい。

 だけど、こっちのエリアはどう見てもお化け屋敷だよな?」

「いいえ、違います。

 ここは、本来怖くないものも、心理学を応用すると恐怖を感じるということを実感してもらうための場所で、お化け屋敷みたいなことにはなっていません」

 あ、鼻で笑いやがったな。


「川本先生。

 ここに入るのであれば、先にトイレに行ってきてください。

 漏らされたら迷惑です。

 お化けなんかいませんし、係の生徒が僕ともう1人いるだけですけど、本当に怖いんです」

「ふざけるな。

 じゃあ、確認しようじゃないか。

 本当にないんだな? 人をびっくりさせるような遊びの企画は……」

「『怖い』はあっても、遊びじゃありません。きちんと体験して理解してもらうためのものです」

 僕は言い切ってみせたよ。

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