第3話 バイトのお誘い


 そして、たぶんだけれど。

 命令すれば使える母さんの力、これって、父さんにも影を落とした。

 というのは、二人で山登りをしたときに、小さな雪崩にあって、父さんが母さんを身を挺して守ったって話があったからだ。

 父さんとしては、自分の生命が賭かっているときでさえも、母さんの力を使いたくなかったんだね。


 これって、なんなんだろうね?

 父さんの中にあるものは……、遠慮じゃないよね。やっぱり、それは誇りなのかなあ。

 母さんに命令して母さんの力で母さんの身を守っていたら、父さんの存在意義ってなんなんだろうってことになるもんね。


 そんなことをつらつらと考えていたら……。

「そういえば、もう一つ話があるんだけど」

 とお姉さま。

「痛い話は嫌です」

 思わず、反射的にそう答えちゃったよ。


「違う、違うっ」

「違うんですか?」

「用心深くなったわね、ヨシフミ。

 きみの中学時代の同級生の荒川くんのことなんだけど」

「あ、はい」

 一体全体、なんだろ?


「彼の叔父さんだっけ?

 瑠奈を狙っていた奴」

「ああ、はい、いました、そういう人」

「正体がわかったわよ」

「え、マジ?」

 僕、思い切り食いついていた。

 瑠奈も目を瞠って聞いている。


「横須賀海軍施設から照会があってね。

 防衛関係の調査の下請けを受けている、ま、形だけは民間会社の人みたいだよ」

 ああ、なるほど。

 装備とか充実していたのは、やっぱりそっち方面に繋がりがあったからなんだ。                                  


「瑠奈がね、この国で目をつけられていたのは、かなり昔からみたいだよ。

 なんか、ずーーっと定期的に存在確認されていたみたいだね」

「定期的ですか?」

「そう、定期的。

 常時監視はされてない。一年に1度くらい、顔を見られる程度。

 ま、露骨に怪しいもんね。

 学校の先生は騙せても、税務署はごまかせない。

 医者の両親がいるなんて言い訳、通じるはずがない。

 そこから、ただならぬ対象だってことになって、防衛関係につながったみたいだよ。

 でもって、その一年に1度の機会が体育祭だった、と」

「ああ、なるほど、それで僕にも興味を持ったんですね」

「そういうこと。

 まぁ、この国では多いみたいよ。そういうの。

 あ、多いと言ったって、うじゃうじゃはいないからね」


 なるほどなぁ。

 今さらそんな事がわかるだなんて、人生ってのは面白いなぁ。

 そして、隠れて生きるってことの難しさを思い知ったよ。

 でもって、前にも思ったけど、僕たちに似たような存在はいるんだね。

 友だちになるか、敵になるかは不安だけど。


「で、なんで横須賀海軍施設から照会があったの?

 なにを聞かれたの?」

 と、これは瑠奈。

 見張られていたってことで、ショックを隠せていない。


「2人に相談なんだけどさ。

 アルバイトしないかって話なのよ」

「アルバイト!?」

 なんかよくわからないけど、どういうこと?

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