第4話 これ、僕の進路?


「籍は民間でも、ま、国家機関ですからね。

 あの人たち、ルーナのDNA情報、持っていたわよ」

 お姉さまが瑠奈を呼ぶときは、いつもフランス語の名前呼びだ。

 でもって、その言葉の意味することに、僕、愕然とする。


「なんで……」

 瑠奈も呆然として、でも、それだけの言葉を絞り出す。

 だって、荒川の家で現れたアイツは、瑠奈の遺伝子が欲しいって最初から言ってた。表現は、もっともっとえげつなかったけど。

 だから、僕、相手の持っていたパソコンのデータと医療キットみたいなものはすべて破壊したし、瑠奈の身体にも触らせなかったはずなんだ。

 

「ルーナ、あんたがガラスの容器を噛み割ったときに、少量の血と唾液が回収されたんだって言ってたわよ」

 ああ、アレか、あの時かぁ。

 荒川の家に忍び込んで、ボウガンで麻酔弾を打ち込まれた瑠奈は、それを咥えて投げ返したんだ。でも、その矢に仕込まれた麻酔薬で、倒れちゃったんだよね。


 そう、あのとき、その口元からガラスの破片がこぼれていたってこと、僕は忘れていない。

 ああ、アレも回収しなくちゃいけないものだったんだ、

 おそるべし、PCR法。

 その程度の少量のサンプルからでさえも、データを取れるだなんて。


「でも、瑠奈のことを剥製にするとか言ってましたよ。

 そんなののところでバイトなんかしたくないです」

 僕は、そう返事をして……。

 突然、拒否権がないことに気がついた。

 お姉さまの目が命令形。つまり、マジなんだ。


「どういうことですか?」

 僕、そう聞いてみる。


「ヨシフミとルーナは、薔薇十字団うちのものよ。だから本業はうち。でもね、バイトもしなさい。

 そして、バイトしながら、相手の組織に食い込みなさい。ルーナのDNAデータを奪い返すのが裏の目的っていうか、本当のミッション。

 ……むしろ、そうね、奪い返すより、偽情報と置き換えるほうがいいわね。フリッツが用意してくれるから。

 でもね、ヨシフミ。

 バイト代はふっかけておいたから、100万200万稼ぐのはすぐよ、すぐ」

 お姉さま、その言い方は、なんか……。


「結局は、お金の話なんですか?」

「バカね、ヨシフミ。

 あんた、普通の会社に就職して、まともな社会人として生きていける気になっているの?

 絶対、無理でしょ?

 人はね、ああ、ヨシフミは人じゃないけど、メンタルは人だよね。

 で、人は、独りにはなかなか耐えられないのよ。

 なにかに属していると思うだけで、結構救いがあるわよ。うちは、地理的にちょっと遠すぎるから、代わりになってやれないしね」

「それで、どうなると?」

 僕、相づちとも、質問ともとれるようような言い方で聞く。


「どんな組織でもね、人の作るものは脆いわ。

 ヨシフミ、100年掛けていいから、バイト先を掌握しなさい。

 人にはできないことでもアンタにはできる。

 夜だけ働くこともできるし、アンタの技能も活かせる。

 しかも、お金になる。

 そう言いたいのよ」

 と、お姉さまは言い切った。

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