第11話 家に逃げ帰るヴァンパイア


 笙香しょうかの顔が悪魔のそれに見えた。

 僕の方が、よほど悪魔に近い存在なのにね。

「けなげだねぇ、ヨシフミ。

 ま、努力しなよ」

 やかましいっ!


「結果を出して、迎えに行くよ」

 精一杯格好をつけて、笙香の言葉に被せる僕。

 したら瑠奈るいな、僕から目を逸らしてさっさと逃げ出していった。

「待ってよー、瑠奈」

 って、笙香が後を追う。


 ちぇっ。

 ま、逃げられるのも仕方ないか。

 嫌われて目を逸らされたんじゃない。恥ずかしがられたんだ。

 これで僕が有言実行できれば、希望はある。


「ヨシフミ、夏休みが終わって、厨二病デビューか?」

 隣の席の桜井が言う。

 人の話、聞いていたな?

「ああ、夏休みの間、頑張ったからな」

「そか。

 リレー、本当ならば、俺がアンカーなんだろうけど、譲ってやるよ。

 広言できるほど頑張ったんならスゲーからな。ま、ガンバレ」

「ああ」

 男子にも聞かれてしまったか。

 ま、がんばるしかないよね。



 そこで先生が入ってきて、ホームルームが始まったんだけど……。

 いまさら、僕、とんでもないことに気がついていた。


 忘れていた。

 僕はもうヴァンパイアだからね。瑠奈に対する、こういう感情ともおさらばしなきゃと思っていたはずなんだ。

 だって、僕が瑠奈を好きになるってことは、瑠奈の血を吸いたいってことなのかもしれないだろ?

 それにうまく付き合えたとしても、どうせ瑠奈はあっという間に歳をとって死んでしまうんだ。

 瑠奈が30歳、50歳、そして80歳になっても、僕は14歳のままなんだから。


 だからと言って、瑠奈もヴァンパイアにしてしまうという決断、今の僕にはできないよ。

 普通に生きていく方が人生のハードルは低い、なんて思うしね。母さんにあれだけやっつけられると、僕だって学ぶよ。



 ま、言っちゃたものは仕方ない。

 瑠奈は可愛い。

 だから、競争率はとても高いだろう。

 僕と付き合うなんて話には、絶対ならないよ。クラス委員の中村、あいつはバレンタインのたびに大袋でチョコレートを持ち帰るからね。どーせ、あいつがかっ攫っていくだろうさ。



 そのあと僕は、ホームルーム中でも居眠りが出て、担任に出席簿で頭を叩かれた。

「いい加減、起きろっ!」って。

 痛くはなかったけど、ぱこんって良い音がして、クラス中が大受けした。

 ちぇっ。

 覚えていろよ、担任。



 

 今日はもう授業はないけど、部活はある。

 僕は化学部。

 ゆるーい部だから、行ったら寝られる。

 そう思っていたんだけれど。


 大失敗だった。

 明日からの実力テストに備えて、理科の勉強会になってる。化学部の部員たるもの、理科では全員90点を越えるべきなんだってさ。

 で、「興味ない」って言ったら、袋叩きにされた。あ、もちろん、言葉の上でだけど。


 袋叩きの言葉、結局はこういうこと。

「中2で厨二病デビューするな」ってさ。

「お前は特別じゃない。普通の中学生として行動しろ」とも。

 あのな、眠いのは生理的な問題だから、本当に眠いんだよ。

 でもって、僕、本当に特別なんだよ。

 ダメだな、言えば言うほど厨二病だ。


 ともかく、僕、ほうほうの体で家に逃げ帰ったよ。

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