第12話 ヴァンパイアと実力テスト


 翌日から実力テスト。

 期間は二日間。

 午後、帰って寝られるのはとてもありがたい。

 そろそろ棺桶買おうかな。西洋風のを探して。アマ◯ンじゃ売ってなかったけど、ヤフ◯クならば買えるかもしれない。

 でも、その中で寝ていたら、母さんにどんな目に合わされるかわからないな。

 きっと、ホースで水を注ぎ込むぐらいのことはやるよね、あの人。


 で、それでも昼寝ができると、夜間の一夜漬けの勉強が恐ろしいほど捗る。

 夜に頭が冴えるって感じ、異常だよ。

 教科書を読むだけで、知識が頭の中の然るべき位置にすいって収まる。

 数学も、数字があるべきところに収まるようにして、問題が解ける。

 歴史なんかも、今の生活との関連が見えて、いろいろ納得しながら覚えられる。

 まぁ、自分自身で驚きだよね。


 ま、瑠奈るいなのことなんか考えだしちゃうと、時間がいくらあっても足らなくなるんだけど。


 とはいえ、試験の結果が帰ってくるまでの間、僕は先生に怒られ続け、最後には担任に職員室に呼び出された。なんで全教科、まんべんなく寝るのかってね。親に連絡するぞって、脅されたよ。

 他の先生も聞き耳立ててた。

 ま、どの先生の授業でも寝たから、仕方ないや。


「勉強しているからです。

 テストの結果を見てください」

 職員室で言い放ったら、室内がしーんってなった。

 担任が口をぽかんと開けているのに一礼して、僕は逃げてきた。


 あ、一つ間違い。

 それでも一教科だけ、寝るに寝れないものがあったな。

 体育だ。


 で、体育の片山先生、僕に目をつけていたらしいんだけど、それ、最初の授業で逆の意味に変わった。

「俺が顧問をしている陸上部に来い」

 だってさ。


 相当に手加減してだらだら走ったんだけど、ヴァンパイアの筋力だもんね。中体連での市の記録に並ぶらしい。「お前は体幹が強い。俺が鍛えれば、全国に行ける。先々は、先生と一緒にオリンピックに行こう」だってさ。


 ダメだよ、先生。

 オリンピックは人間のための競技会だ。

 僕、短距離でも長距離でも幅跳びや高跳びでも、簡単に世界新記録を出すよ。ハンマー投げだって、ム□ブシ選手を超える記録が出せると思うけど、それはちょっとねぇ。

 まして砲丸投げなんて20mそこそこで世界記録だから、400mも飛ばしたら前人未到すぎる記録になって、エライことになると思う。

 次の時間からは、もっと手を抜くよ。

 それにね、そもそも体操着のヴァンパイアってのが、僕の美学に反するんだ。


 ただ、それでも、片山先生、少しだけ僕に優しくなった。



 で、試験から10日後、結果が返ってきた。

 やっぱり付け焼き刃の勉強じゃダメだな。もう少し、きちんと勉強しなきゃだ。

 どの教科でも満点はとれなかったし、1位にもなれなかった。

 良くて2位、悪くて4位。

 で、結果としては総合で1位。


 案外みんな、教科によって波があるんだね。平均して点がとれれば、教科別1位がなくてもこうなるのか。

 ま、ヴァンパイア・チートなのは間違いない。そんな言葉があるのかは別として。


 担任の先生、すごーく不本意そうに成績表を渡してくれた。

 でも、「夏休み、頑張ったのはわかる。夜も勉強頑張っているのはわかったけど、昼間起きている努力もしろ」って言われた。

 でも、有言実行したからね。これで少しは生活しやすくなると良いなぁ。

 学校でも、自分のうちでも。

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