第5話 ヴァンパイアのビンゴ!


「おおお、オマエラ、なにをした?」

 川本先生、ぷるぷる震えながら聞いてくる。


「やだなぁ。

 言ったじゃないですか。

 あくまで、人間の想像力を高めると、心理学的に怖さを感じちゃうという話ですよ」

「そ、ソレだけじゃないだろっ!?

 あ、あああ、あそこにはなにが仕込んであるんだ!?」

「なにもないですよ。

 だって、お化け屋敷じゃあないですからね。

 幽霊の文化の展示のエリアもありますけど、こっちはあくまで、心理学ですからね。

 なんなら確認してくださいよ。

 なんにもありませんから」

 僕、そう言って、洋風ホラーのエリアの方へ手を伸ばす。


「い、いいいや、いや、いい」

 あ、歯がかたかた鳴ってるな。

 ちょっと素人さん相手に、本気を出しすぎちゃったかなぁ。

 って、別に僕と瑠奈も、脅かすプロじゃないけどね。


「そう言わずに。

 僕たちも、またいろいろ言われたくないので、確認をお願いしますっ!」

 川本先生、直立不動に立ち上がった。

 そう、ほんの0.2秒くらい、僕の目、赤くしたんだ。


 そのまま一目散に逃げようとした川本先生の腕を、今度は笙香しょうかが掴まえた。

「先生、一緒に行きますから、確認をお願いします。

 ちゃんと明るくしますから大丈夫ですよ。

 で、なにもなかったら、中止とか手直しはもうということで」

 うん、さすがに上手いね。

 言葉でというよりも、ふんわりとしたいい雰囲気で丸め込んだよ。


 こんな感じで、中間テストの質問もしたんだろうね。で、これが全部羊の皮をかぶってやっているってことなんだから、やっぱり「器用さと要領の良さだけで世の中渡っている」っていう僕の言い方、正しいじゃん。

 あ、でも、それを活用して勉強もしているんなら、「だけ」じゃないし、ちょっと失礼だったかな……。


 で。

 川本先生、右足と右手が同時に出ちゃっているけど、笙香にひっぱられて、ようやく洋風ホラーのエリアを覗き込んで……。

「なにもない……」

 青い顔色のまま呆然とつぶやいた。


「そりゃそうです。

 繰り返しますけど、心理学ですから。

 人間だったら、程度の差はあれ、誰でも怖いんですよ。

 先生、化学の先生ですもんね。幽霊や妖怪はいないって固く信じているからこそ、余計に怖かったんじゃないですか?

 普通の人はここまで怖くないはずです。

 つまり、そういう展示なんです」

 って、心理学ってそういうものだったっけ? とは激しく思うけど、この場はそれで押し切ろう。

 ごめんね、心理学を勉強している人たち。って、僕、内心で誰かに謝ったよ。


 でもって、普通の人はここまでは怖がらないってのは、重要な情報なんだよ。必ず伝えないといけない。

 川本先生、「あまりに怖いから事故が起きるおそれがある。だから中止」って言えなくなるからね。

 で、他の人が怖がらないってなると、川本先生だけが臆病ってことになる。そう思われるのも避けたいはずだ。


 

 そこで、瑠奈が、がおって鳴き真似をした。

 それを見た川本先生、ものも言わずに僕たちを振り切って、教室から出ていっちゃった。

 さすがにその背中に歓声は浴びせられないので、みんなでグッジョブの親指を立てあったよ。


 撃墜、成功。

 おまけに、「もう、ツマラナイことを言うんじゃありません」って、僕がささやいた暗示が生きていれば、文化祭が終わるまでもう二度とここには来ないだろう。

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