第24話 父さんの魂の代わりに


 つまり、父さんの魂は、リリスにとっては増幅の種子なんだ。

 そして、神も悪魔も、ゴムチューブで覆われた僕たちの世界の外の存在。

 神学も悪魔学も突き詰めてわかっているわけじゃないけど、ヴァンパイアになった僕とすら隔絶した存在だという認識はある。


 だから、神も悪魔も僕たちの世界の外の存在なんで、善とか悪とかの定義も僕たちとは異なるだろう。

 でもね、希少性という価値はどこにいても変わらない。

 つまりさ、ややこしい話になるけど、父さんとは違う形の魂の雛形であっても、善なる方向が合っていて、多少とんがっていて希少性があれば受け入れてもらえる可能性は高いんじゃないかな。


 うん。

 そういう意味で変わった魂の雛形を作れたら、より良いもの、つまり父さんより遥かに理想的な善なるものとして、より価値あるものとしてリリスに受け入れられるんじゃないだろうか?


 となると……。

 話は最初の検討に戻る。

 父さんが死ぬ代わりに、殺し屋さんの生命を捧げるのはダメだと思うよ。

 でも、父さんの魂の代わりに、より良い善なる魂を捧げるための一助に使うのであればどうだろう?


 殺し屋さんたちは、遅かれ早かれ処分される。

 何人も殺しているし、裁判とかの表に出せない事情もある。

 でもさ、その彼らが処分される前に、魂を思いっきり善の方向に改造するのは悪いことかな?

 僕はそれができるんだよ。

 彼らが道具としてでも、人の命をさんざんに殺めてきたのは事実。だから、そのまま処分されるのよりは、悔い改める方向になるだけよくないかな?


 そして……。

 その魂の雛形を生気プネウマのエネルギーでコビーをとって、リリスに渡せば良いんじゃないかな。ついでに、善の方向で殺し屋さんたちの人数分のバリエーションを持たせておいた魂のコピーならば、さらにリリスは喜ぶだろう。

 でも、渡すのはコピーだから、殺し屋さんたちの魂は残る。つまり、転生にも問題はないだろうし、来世ではさぞや善行を積んでくれるだろう。


 ま、善行として人を殺すようになっちゃったら今と同じだから、それだけはロックを掛けとかないとだけど。


 でもって、魂のコピーを取る方法は、もう僕たちは持っている。

 笙香は、内臓1つを包む形で生気プネウマの壁を作った。

 僕は外見だけでも成長するように、僕の身体の本質とその外側の間に生気プネウマの壁を作った。

 つまりさ、物質と生気プネウマの間に壁を作ることに比べたら、生気プネウマのかたまりである魂に沿って壁を作ることくらい、遥かに楽な作業ってこと。

 でもって、うまくできたら、その壁だけ残して、その中に新しい生気プネウマを流し込めばコピーも取れることになる。


 ひょっとして、僕は天才かもしれないぞ。

 まぁ、僕はヴァンパイアで、血とともに生気プネウマを吸う存在だから、そういうのも思いつくことができるんだけどね。

 とはいえ、あの、フリッツさんが持っていたダマスカス鋼みたいなきれいな紋様の短剣があったらなぁとは思うよ。

 作業はずっと楽になるはずなんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る