第48話 理解、幻覚


 まずは僕たち、2つの団体の無力化に成功したよ。


 僕は、人を殺したくない。

 たとえ、同士討ちの演出であっても、だよ。

 その思いを瑠奈るいなは受け止めてくれた。


 人を殺すってこと、お姉さまは馴れている。

 僕は、まだ馴れていないってか、普通に生きてきた高校生だから、とてもじゃないけど抵抗があってできない。未だ、ヴァンパイアだっていうのに生き血をすすったことがないくらいだからね。

 それに比べて、母親を殺されている瑠奈こそが、一番その重みを理解しているのかもしれない。


 悩む僕に、瑠奈が具体的な作戦を考えてくれた。

「ヨシフミは、恐怖を体現できるんだよ。

 ヨシフミは赤い瞳で相手を洗脳できるけど、この力って相手に幻覚を見せることもできるよね」

 瑠奈の問いに僕、頷く。

 うん、ヴァンパイアの能力の応用だね。

 洗脳して、見たと思わせればいいんだ。


「ならさ、恐怖の対象は私たちじゃなくていいんだよ。

 私たちが襲いかかって、真祖のヴァンパイアやジェヴォーダンの獣を怖がらせる必要はない。そうじゃなくて、この島に来ようとした船が転覆してサメに取り囲まれたとか、溺死する寸前まで行ったとか、そういうのでいいじゃん。

 どんな敵が来るかわからないけど、人間であること間違いないんだから、人間が怖がるものはみんな有効だよ」

「ああ、そうだね。

 それならできるかも」

 僕の返事に、瑠奈、ちょっと呆れた顔になった。


「できるかもって、ヨシフミ、中学の時にさんざやったじゃない」

「えっ?

 あ? あれかぁ?」

「そう、お化け屋敷。

 あのとき、私もヨシフミも自分の生の気配だけで人を脅かしていたけど、それをちょっと自分とは違うものの形にしてやれば、作戦は成立すると思うんだ。

 たとえば、さっきの話ならサメとか」

 うんうん、確かにできそうに気がしてきたよ。

 ものすごーく怖いサメができそうだ。


「生き物を模してってのは怖くていいけど、日本にいない生き物じゃ、かえって嘘くさくなるよね?

 日本にして怖い生き物だと、サメ以外にはたいしていなさそう。

 ……さすがに、この島にヒグマは無理があるよね」

 僕、ぶつぶつと呟く。

「蛇とかムカデとかならいるよ」

 うっわ、瑠奈の案、えげつないなぁ。


「でもさ、蛇がにょろにょろ出てきて、それで全員が怯えてくれるかな。武装しているわけだから、撃ち殺して終わりってことにならない?

 まして、人数がいる中には、蛇もムカデも平気って人、いると思うんだ」

 僕、えげつないのは認めた上で、さらにそう言ってみた。

 だって、徹底的に脅かして、使い物にならなくするんだよね。

 ここに戦いに来ようって人が水中でサメに襲われるのならまだしも、上陸してから1匹の蛇に怯えるとは思えない。


 より怖くするなら、大きくするとか、色を派手にするか、首をふくらませるコブラみたいなのにするくらいしか思いつかないよ。

 数を増やすにしたって、不自然なほど増やさないと怖さが出ない。で、あまり不自然だと、幻覚見せているっていうのがバレるかもしれない。

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