第26話 父さんの魂を元にして


「もう一つの、わざわざ殺し屋さんたちの魂のコピーを使う理由は?

 そもそものことを言うなら、ヨシフミのパパの魂のコピーでいいじゃん?」

 うん、瑠奈の言うとおり。

 でも、それじゃダメなんだよ。


「それはね、母さんの寿命も取引の俎上に乗せたいからだ。

 となると、手数料が高くなるのは避けたいなーって。

 どっちが必要かで、手数料が多くも少なくもなるって話だったじゃん。

 なら、向こうに取引させたいて思わせないと、母さんの寿命まで含めて取引しにくいかなーって。

 父さんの魂よりピーキーなのを作れれば、母さんの寿命は手数料として向こうにサービスさせるってことすらできるかも」

「なるほどねー」

 うん、瑠奈が頷いてくれたから、たぶん、僕の考えは間違ってない。


 実は、さらにもう一つ理由がある。

 僕、リリスの好みにジャストフィットした魂を作る自信……、実のところ、ないんだよね。

 かなり絞り込めるとは思うけど、でも、好みにジャストフィットってのはピンポイントだ。よほど運が良くないとダメだと思うんだよね。

 でもさ、殺し屋さんたちの霊を使って雛形を作るとなると、それなりの数のバリエーションを持たせられるんだ。つまり、一発勝負を避けることができる。

 これは大きいよ。



 次に僕、赤い薔薇の花が納品される期日までに、殺し屋さんたちに再アクセスすることと、お姉さまに送金してもらうことが必要だって話した。

 さらに、借りられるなら、あの生気プネウマを練り合わせて作られた、ダマスカス紋様の短剣もドイツから送ってもらうことが必要だって伝えた。

 なければないでなんとかしないとだけど、あれば絶対助かるからね。


 そしたら瑠奈、僕が話しかけても無言のまま病院内のATMに足を向けて、50万円を下ろして僕に突きつけた。

「高校生がね、薔薇を1000本欲しいって花屋に行って、注文を受けてくれるはずがないでしょう?

 いたずらって思われるのがオチよ。

 その疑いを晴らすためには、お金しかないし、送金を待ってからじゃかなり先の話になっちゃうでしょ」


 ……こういうとき、僕はやっぱり瑠奈に敵わないなぁって思うよ。

 瑠奈の助けがなかったら、たぶん自転車で花屋さんに乗り付けて、一騒動起こしていたかもしれないね。

 僕が、そのお金をありがたく受け取って、「倍にして返すから」って言ったら、瑠奈、「詐欺師かっ」って吐き捨てた。


「ヨシフミ、キミがこないだもらった現金分は、もうほとんど必要経費になっちゃって、残っていないのは知っているから。

 お祖母ちゃんが、まだたくさんヨシフミのお金を預かっているのも知ってるし、立て替えただけだから気にしないで」

「うん、ありがと」

「お祖母ちゃんには、これから電話するから。

 あの短剣、ジェット機をチャーターしてでも間に合わせよう」

「そんなこと、できるの?」

 僕、びっくりして聞いた。


「お金で片がつく問題なら、この世の中、なんだって可能なのよ」

 ああ、そう。

 敵わないなぁ、瑠奈には。

 こういうときの瑠奈は、フランスのワイナリーのやり手社長なんだろうなぁ。

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