第27話 父さん、カウントダウン
瑠奈とあちこち電話したりして、できる限りの手を打って、ようやく病室に戻ったら母さんにイヤミを言われちゃったよ。
ま、元気を少しは取り戻せたってことなんだろうけど。
「彼女と、肩なんか並べちゃってさ」
って、そう言われたら、あらためてどきどきしてきたよ。
そか、母さんから見て、僕と瑠奈は恋人同士に見えたのかな。
で、そのどきどきしちゃったのが母さんにバレないように、できるだけ冷静を装ってこれからのことを話した。
ドイツから医療器具が届くこと、2日間はなにがあっても父さんの延命措置をしてもらうこと、「病室が足らない」とか言われても、絶対退院しちゃダメだってこと。
そしたら、母さん、瑠奈のことを凄い人を見るような目で見だしたので、まぁ、これはこれでいいかなー。
ドイツの専門医の関係者ってのを、ようやく本気で信じたのかもしれないね。
たださ……。
「ヨシフミ、アンタ、絶対この娘に逃げられるんじゃないわよっ。
母さん、なんでも協力するから」
って、こそこそ僕の耳元でつぶやき出した。
それは重いよ、重すぎるよ、母さん。
僕だって逃げられたくはないけどさ……。
それより見なよ、瑠奈の表情。聞こえてるって。
「困った」と「恥ずかしい」と「嬉しい」と「死んでしまえ」が同居してる。
もー、本当にもー。
− − − − − − − − − −
手術2日後。
僕は、病院の父さんの病室にいた。
最初は大部屋にいたのに、二人部屋になって、今は個室だ。
たぶん、病院側からはもう助からない患者って見られているんだ。
父さんは眠っていて、この2日の間に目の周りとか頬とか、げっそりと痩けおちていた。点滴を続け、本人もそれなりに食事はしているのに衰弱が止まらないんだよ。
心配していた退院なんて話、持ち上がるはずもない。
担当医の先生も、半ば頭を抱えていた。
「一週間後には……、どうなってますか?」
そう聞いた僕に、担当医の先生、こう答えたんだよ。
「わからないです。
さまざまに検査は繰り返していますし、他の医師ともカンファレンスは繰り返しているんですけど……。
まるで、全身の細胞が分裂をやめちゃったようですね。放射線障害まで疑ったのですが、当然、そうではありませんでした。
ただ、全力は尽くしています。
そうは言っても、ご家族に不信感を持たれても仕方ない事態ですし、他病院でのセカンドオピニオンを取りたいならカルテと検査結果は出します。転院されるなら協力します」
だって。
そう言われて僕、「実は理由は知ってます」って言えない申し訳なさを感じたよ。
医療訴訟なんかもあるこの時代、「わからない」って言ってくれる先生をとても信頼できる人だとも思った。
だから先生、もう数日でいいから面倒見てください。
お願いします。
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