第7話 ヴァンパイア、萌えたり燃えたり


 瑠奈るいなと僕は、小学校校区が違う。

 ってか、転校生だったっけ。

 だから、一緒に帰ると言っても、共に歩ける距離は案外短い。

 なので、道行きが分かれる前の公園で、僕と瑠奈は話した。


 いきなり。瑠奈が言う。

「ヨシフミ、今晩、家を抜け出してこれる?」

 えっ? もう?

 瑠奈、なんて積極的なんだ。

 きっと、260歳も年上ならば、きっと経験豊富なんだろうな。

 僕の初めてのキスとか、優しく貰ってくれるかな……。

 歯を磨いてから、家を抜け出さないとだよな。


「ヨシフミ、なんか、馬鹿なこと考えてない?」

 えっ? あれ?

 瑠奈、なんでそんなこと言うんだ。

 きっと、260歳も年上ならば、僕の考えなんか丸わかりなんだろうな。

 僕の初めて、優しく受け止めてくれるかも……。

 シャワー浴びてから、家を抜け出さないとだよな。


「ヨシフミ、アンタ、いい加減にしろっ!

 ふわふわ怪しい妄想してないで、話を聞けっ!」

 一体、なんなんだよー?

 夜に家を抜け出してこいって、そりゃ期待するよ。


「アンタ、さっきの、可怪しいとは思わないの?」

「なにが?」

「救いようがないわね、この馬鹿ヴァンパイアは……」

 あ、ひどい。

 なにげに、ヴァンパイアという単語の頭に「馬鹿」が付いたって、歴史上初めてじゃないだろうか?


「だから、なにが?」

 再度聞き返す僕に、瑠奈、これみよがしに大きなため息を長々と吐いた。


「荒川がどれほど馬鹿でも、あそこまで馬鹿じゃないわよ。

 あんなこと言ったら、明日から女子の誰からも口を利いてもらえなくなる。

 荒川、たぶん、アレは言わされているのよ」

「言わされてるって?

 だれに?」

「わからないわよ。

 かと言って、放っても置けない。

 女扱いの抜け目のなさでは、荒川のこと、信用しているんだよね。

 だから、異常事態が起きてるのがわかるの。

 今晩、その確認をしたいから、家を抜け出して来いって言ってるの」

 ああ、そういうことかぁ。

 ちぇっ。


「荒川の中に、別人格みたいに潜んでいるとか、遠隔操作しているとかしたら、これはたちの悪い相手よ。

 十分に気をつけないと、危ない」

「そんなのがいるんだ……。

 で、目的はやっぱり、クラスの女子たちを手に入れるため?」

「なら、まだいいんだけれどね。

 ジェヴォーダンの獣である私が目的だったら、これは困る。相当にたちの悪い敵ということになるからね」

 おお、人知れず人海の闇で戦う、人ならざる者たち。

 これこそ、燃える展開だぜー。

 こういうの、待ってたっ!


「アンタね、アンタ自身も標的になるかもって考えはないの?

 ノーテンキなこと考えていそうだけど、ひょっとしなくても馬鹿?」

 う、うるせいやい。

 も少し、僕を大切にしろよっ!

 何回、僕のことを馬鹿って言うんだ?

 でもね、それでも僕、どんな敵が来ても負ける気がしないってのはあるんだよ。

 だから、僕自身が標的になっても、全然困らない。


「たしかにアンタは、どの種族より強い。

 私もアンタには勝てない。

 心臓に杭を打ちこむのも、警戒されたら絶対できないと思う。身体を霧にされたらもう手の打ちようがないからね。

 でも、人間はこの世界の圧倒的多数で、自衛隊とかがマジに対策してきたら、リスクはとても高いのよ。

 そして、捕らえられたが最後、きっと私たちは高く売れる」

 げっ。

 マジか。


 売るって、どういうことよ?

 愛玩用? 実験用?

 つくづく、人ってのは怖いわ。

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