第6話 ヴァンパイアへの挑戦状

 

 瑠奈るいなの「イ・ク・ジ・ナ・シ」っていうソウルフルな一言を貰って、打ちのめされなかったと言ったら嘘になる。

 こう見えて、僕も男だからね。


 だいたいさぁ、僕が瑠奈に告白できていたとして、そのあとどうなったかなんて想像もつかない。お互いに思春期真っ只中の中学生であれば、段階を踏んだおつきあいってのに踏み込んでいくのだろうけど……。

 もうね、260歳を越える瑠奈と14歳の僕、どう付き合って、なにを話せば良いのかすらわからない。

 ただね、なにをしたって、瑠奈の手のひらの上から出られないと思う。


 で、よけいに混乱するのは、年齢差性愛クロノフィリアなんて性癖の人でも、250歳差ってのはないよねぇ。

 それなのに、瑠奈、見た目は文字どおりの美少女だからね。

 もう、ホント、混乱するよ。

 おまけに、種族の違いってのも、僕、よくわかっていないし。そもそも、恋愛関係という関係なんて、成立するのかねぇ?

「好きだっ!」って叫んでも、「あー、はいはい」って流されちゃいそうだよ。



 とりあえず、その日の放課後。

 僕は、瑠奈に声を掛けた。

「部活が終わったら、途中まで一緒に帰らない?」

 って。

 結局、いろいろ聞いて情報を得ないと、人ならざる者たちの生き方がわからないからね。人生経験、おっと、獣生経験豊富ならば、ぜひにも先輩からの話を聞きたいよ。


 で、瑠奈が返事をするより早く、荒川が口を出してきた。

「おい、ヨシフミ。

 再来週に始まる中間テストで、オレは学年1位を取る。

 それまで、瑠奈に手を出さずに待ってろ!」

 ……だってさ。


 どうしようかねぇ。

 挑戦状突きつけられても、全然負ける気がしないんだけど。

 おまけに、瑠奈が荒川のことを嫌なのはわかっているし。


 ただ、ちょっと腑に落ちないこともあるんで、それは聞いてみようかな。

「ねえ、荒川くん。

 荒川くんは、クラスで一番モテるじゃん。

 男から見てもカッコいいし。

 いつだってクールでクレバーなのに、なんで内川さんのことはそんなにムキになるん?」


 あ、失敗しまったかな?

 話を傍受していたクラスのみんなの視線が、いっせいに荒川くんの方を向いた。

 こりゃ、本音は話してもらえないかも……。


 ところが荒川くん、胸を張って、最低なことを言い放ってくれた。

「この学年、全クラスのイイ女上位3位までは、オレがオトすって決めたんだ。

 もうちょっとでコンプリートなんだから、邪魔するな!」

 僕、ちょっと呆然。

 スゲーこと言うね、この人は。


「サイッテー!」

 女子たちの声が響く。

 マジで嫌悪感を感じたみたい。

 ま、当然だよね。


「勇者かっ!?」

 対して男子は、とことんマヌケなことを言うよね。



 瑠奈の顔が、浮かないものになった。

「ヨシフミ、帰ろう!」

 瑠奈、僕に向かってそう強く言うと、かばんを持ってさっさと歩き出す。

 僕、焦ってその後を追う。


「……女王様とお付きの家来みたい」

 うるせー、聞こえるんだからな、ヴァンパイアの耳には。

 後で覚えていろよ、笙香しょうかめ。

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