第4話 絶望のヴァンパイア


「いつから、わかっていた?」

「体育祭のころからうっすらとね。

 あのころから、笙香しょうかと一緒に帰る回数が減って、ヨシフミと一緒のことが増えた。

 ……耐えられなかったの」

「もしかして、真祖のヴァンパイアがヴァンパイアにした人は、元の人間に戻るのか? っていうさっきの質問……。

 僕が笙香の血を吸って、不老不死のヴァンパイアにしたあとで人間に戻せれば、腫瘍も治ってるって?」

「うん。

 でも、それでヨシフミが死なないと笙香が人間に戻れないなら、この方法はなしね。

 せめて、検査を受けるような気になるよう、努力するしかないけど……。

 たぶん無理。だって、今はとても元気なんだから」


 それはそうだ。

 僕だって、現実感、まったく生まれてきてない……。



 ……瑠奈るいなの正体は、ジェヴォーダンの獣だ。

 強大なる狼の力と、賢さという人の力を持っている。

 でも、その力は人を癒やすという方向じゃないよね。


 僕は真祖のヴァンパイアだ。

 ものは言いようだけど、僕は、僕自身に準じた力を人に分け与えることができる。

 死病にかかった人であっても、ヴァンパイアにしてやれば永遠に生きるだろう。

 ただ……。

 人間の生命とヴァンパイアの生命では、その本質が違う。

 だから、健康ではつらつと、太陽の下で生きるってのとは違ってしまうんだ。

 おそらくは病巣を克服しないまま、そのままであり続けてしまうんだと思う。


 僕、瑠奈に、そのあたりのヴァンパイアの特質について話した。

 話している間に、ゆっくりと実感が伴ってきて、僕、泣いていた。

 笙香をヴァンパイアにしたら、ほとんど永遠に生きられるけど、病巣はそのままだ。だから、人に戻っても……。

 それに、だれかが死病に罹ったからと行って、全員をヴァンパイア化するわけにもいかない。

 そのあたりは線をきちんと引かないと、ヴァンパイアvs人類の最終戦争だって起きかねない。


 瑠奈が打ちのめされた顔になるの、初めて見た。

 僕の、ヴァンパイアという存在が、夢を見させてしまったのなら申し訳ない。

 でも、僕の力ではどうにもならないんだ。



「だめだな、私。

 こういうの、慣れているはずなのに。

 いつだって、私が見送るのは年下の人。もう少し生かせようがあったんじゃないかって、いつも思う。

 無力だなぁ、私」

「神様じゃないもん。

 僕も瑠奈さんも。

 限界は……、なんであるんだろ?

 それを超えるために、真祖のヴァンパイアになったのに。

 なんで……」


 2人で、ソファに沈み込んでひたすらに落ち込んだ。

 今ここで、僕と瑠奈が会っているきっかけも、笙香が作ってくれたのに。



「ヨシフミ、ごめんね。

 ローズティー、淹れなおすよ」

 瑠奈、さばさばした口調で言う。


 ……辛いけど、瑠奈、こうやって乗り越えてきたんだろうな。

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