第5話 ヴァンパイアの思いつき


「生き血をごちそうしたら、少しは怖くなるのかな、ヨシフミも」

 瑠奈るいなが、ちょっとだけ明るい口調で言う。

「うーん、まだ飲んだことがなくてさ。

 どちらかというと気持ち悪いかなぁ。

 直接噛み付くのなら、噛み付いてもいい人がいいし。

 たとえばね、学年主任の川本先生の首筋に噛みつけって言われても、僕、嫌だ。絶対にっ、嫌っ!」

 僕も、意識して話を合わせた。

 だって、悲しくて、耐えられなくて、でもあまりに無力なんだもん、僕たち。


「じゃ、献血バックからなら?」

「点滴みたいな袋に入っているヤツ?

 それ、もっと嫌だな。

 そこから飲むと、すっごいモンスター感とか、異常性癖感が漂うじゃん。

 それなら、もう、完全に薔薇の方がいいよ」

「そか。

 ヴァンパイアは美意識が高くて大変だね。そのうち、天然物のB型しか飲まないとか言い出しそう」

 思わず、瑠奈と顔を見合わせて少しだけ笑ったよ。


「瑠奈さんこそ、フランス人と日本人のときで血液型、変わっていたりして」

「あー、そもそも、私の血、ABO型じゃないから。

 中身は、ジェヴォーダンの獣と呼ばれていた生き物のままで変わらないんだよ」

「えっ、こんなに可愛いのに?」

「『四つ足のときは可愛くない』って言っているのと一緒だぞー」

 瑠奈、ぷんすかって顔になる。

 少しでも雰囲気を明るくしたい。そんな考えが透けて見えるよ。


 僕も、その考えに乗ろう。

 どうにもならないことは、どうにもならない。割り切れなんかしないけれど。

「そんなことない。

 しなやかで、強くて、うーん、可愛いより美しいだよね」

「ばかーっ。

 なにを言いだすんだよー」

 大げさに照れる瑠奈を見ながら、僕の頭の中で、なにかが急に引っかかっていた。


 釈然としない。

 なんだろう、この感じ。

 頭蓋骨を、内側から引っかかれている感じ。



 血液型。

 外見。

 中身は変わらない。

 ヴァンパイア。


 血液型。

 外見。

 中身は変わらない。

 ヴァンパイア。


 うーーーーー。


 中身は変わらない。

 ヴァンパイア。


 中身だけヴァンパイア……。

 


「……ねえ、瑠奈。

 外見だけ変えるって、どういう方法なの?

 別のバージョンを手に入れるのは、代償が必要だって言っていたよね。

 どうやって、中身と外見の境界を設定しているの?」

 僕、思わず立ち上がって、瑠奈を問い詰めちゃったよ。

 瑠奈、ちょっと気圧された感じになって、それでも教えてくれた。


「薔薇十字団の秘法なの。

 C.R.C.の秘技を受け継いだ組織があって、できる範囲でいいから寄付をしてお願いするの。

 彼らは慈善事業をしているから、お金はいつも不足しているのよ。

 で、問題はお金よりも、どういう方法かは私にもわからないけど、中身と外見の境界を設定する際には相当の危険があるらしいの。

 いにしえのガレノスのいう生気プネウマを制御する方法らしいんだけど、具体的な方法は私にはわからない。

 でも、狼だった祖母を人にするよりは簡単だったはずよ」

 まぁ、それはそうだろうなぁ。

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