お宅訪問
第1話 ヴァンパイアのお宅訪問
文化祭は土曜日だったからね。バカみたいなこと言うけど、翌日は日曜日だ。
だから、朝イチからだって、
なので、約束は午前10時30分。
8時って言ったら、瑠奈と
でも、早く行きたかったんだよー。
ただ、それでも10時半で良かったのは、お土産が買えたこと。
でなきゃ、コンビニでおせんべい買うぐらいしか手がなかった。まぁ、初めてお伺いするお宅に、それじゃあんまりだよね。
ともかく今回は、近所の和菓子屋さんで「栗まろげ」を買えたので、喜んでくれたらいいな。
で……。
教えてもらった道をたどって……。
うーむ、お屋敷だなぁ。少なく見積もっても、周囲の家の倍は敷地面積がある。
社長令嬢じゃなくて、社長そのものだもんなぁ。
自転車を降りて、門扉の呼び鈴を押す。
うおっ、カメラ付きだ。ちょっと怖いぞ。
「すみませーん」
「はーい。
今、ロックを解除したから入ってきてー」
「はいっ」
自転車を押しながら門扉を通って、玄関脇で自転車を停めて……。
なんかもう、どきどき最高潮で、右手と右足が一緒に出そうだよ。
くっ、とてもじゃないけど、ヴァンパイアの風上にも置けない惨状だなぁ。もっと自覚して、こうなんていうか、クールにできないもんかね、僕は。
玄関の扉の前に立つのと、その扉が開くのが一緒だった。
そしてのその奥には瑠奈。
制服でも体操着でもない瑠奈を見たのは、初めて。
ってさ、違和感がある。
間違いなく瑠奈なんだよ。
でも、大人。
落ち着いた年上の女性。
スカーフにショール。
あ、そか、自宅だと素のフランス人のままでいいし、年齢的にも中学生を演じる必要なんかないもんね。
なんか、気圧されちゃってさ。玄関先で、呆然と立ち尽くしちゃったよ。
「どうした、ヨシフミ?」
そう笑いながら声を掛けられて、うん、やっぱり瑠奈なんだけど、違うー。
「あれっ、あの、瑠奈さんですよね?」
「『瑠奈』でいい。
ここでなら。
他に誰もいない」
「あ、はい……。
お邪魔します」
ぎくしゃくぎくしゃく。
なんか、口もなめらかに動かないし、手足もばらばらに動く。
くっっ、完全に瑠奈の雰囲気に飲まれているぞ、僕。
ヴァンパイアともあろう者が。
「大丈夫か、ヨシフミ?」
「緊張しているだけです」
ようやく、落ち着いた茶色を基調とした広い部屋で、ソファに座る。
ゆっくり周りを見渡せば……。
ものすごくたくさんのものが、この部屋にはある。
4分の3くらいは、ガラス棚に大切に入っている。
でも残りは、棚の上に直接並べられている。
でも、ごたごたした感じがしないのは、部屋が広いのとやっぱりセンスだと思う。
そして、ごたごたなんて言っちゃ失礼なほど、そのひとつひとつは価値があるものに見えた。だって……。けっこうみんな、100年は超えているよ、絶対。
きっと、記念になるもの、大切な人からプレゼントされたもの、どうしても欲しかったものや必要だったもの……。
そか、ここにあるものって、瑠奈の生きてきた人生そのものをなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます