第12話 ご招待されるヴァンパイア


「気をつけるよ。

 ごめん」

 僕は謝る。

 なんとなく、瑠奈るいな笙香しょうかの間の空間に。


 この女子2人は怖いからね。

 さっきまで喧嘩していても、いきなり連携をとって僕を責めたりするから、油断はできないんだ。だから、あえて曖昧に謝ったよ。


「あのね、お互いにあまりにつんつんし合っていると、嫌になっちゃうからね。おねーさんの言うことをよく聞いて、お互い少しはでれでれし合うのよ。

 わかった?」

「わかったー」

 って、僕はよい子の返事。

 でもって、瑠奈は悪い子らしくて、返事をしない。


「これは仕方ないわね。

 瑠奈、ヨシフミを自宅に呼んで、お茶でもごちそうしなさい。

 アンタの両親、勤務医で忙しくていつもいないんでしょ?

 邪魔の入らない2人きりの状況なら、いくら恥ずかしくても少しはマシでしょ?」

 ああ、そういうことになっていたよね、瑠奈の親の設定。

 先生を加えた三者面談も、救急患者が入ったってドタキャンするって言ってたな。


 笙香は続ける。

「ヨシフミ、これでダメだったら諦めた方がいいよ。

 この女ってば、ずーっとつんつんしてるよ」

 うーむ。

 たしかにさ、260年もやり方が決まっていたら、そうは変えられないかも。



「先生っ、質問ですっ。

 変わらなかった場合、どうしたらいいでしょうか?」

 ぶっすんってなっている瑠奈に構わず、笙香に聞いてみる。

「恋愛小説とかドラマとかの話を振っても、一切見てないのよ、瑠奈ってば。

 自分にとって無縁だと思っているか、もう見ていらんないと思っているかだよね。

 女子の輪の中で、恋バナしても目が泳いでいるし。

 不器用に手足が生えて、不器用の国から不器用にやって来たようなもんだから、思い切って、ヨシフミが強引に話を進めちゃった方がいいかもしれないよ。

 どうも見ていると、ヨシフミの方がまだマシだからさ。

 それでダメなら、早めにさじを投げた方がいいよ。

 告白した方から振ったって、全然問題ないから」


 あ。

 瑠奈が、すっげーダメージを食らっている。

「笙香、あんたね、すごーくひどいことを言ってる……」

「大丈夫だから、瑠奈。

 私たち、友達じゃない。

 ちゃんと私の結婚式にも呼んであげるし、子供が生まれたら、抱っこもさせてあげる。

 だから、雰囲気だけでも味わえるから、大丈夫っ!」

「……くっ、今日は負けかぁ?」

 アンタら、「今日は」って、毎日帰りがけにこれやっているんかいっ。

 思い出してみりゃ、前回は瑠奈の勝ちだったよね。

 ったく、意味不明な切磋琢磨だなぁ。


「じゃあ、瑠奈さんはぽんこつなんですね?」

 僕、元気ハツラツに確認してみた。

「……そんなことない」

 地を這うような瑠奈の声。

「えっ、本当に?」

 と、これは余裕に満ちた笙香の返し。

「本当にそんなことないなら、ヨシフミに甘えられる?」

 ぐっ、ってなった瑠奈だけど……。


「ヨシフミっ!

 明日、うちにお茶を飲みに来なさいっ。いいわねっ?」

「あ、はいっ」

「ぎったんぎったんにやっつけてや……、甘えてみるから」

 一体、どっちなんだよっ!?

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