第6話 保留を言い渡されるヴァンパイア


 笙香しょうかの提案に対して……。

 成績が中堅どころの女子、次々と手を挙げた。

「やるよ、笙香」

「私も」

「先生から聞き出す、コツを教えて」

 具体的なことを話されると、志願者って生まれるものなんだね。


「ありがとう。

 じゃ、これが終わったら、話そ。

 あとでね」

 笙香がそうまとめて、一つ話が進んだ。


 そこで、荒川が立ち上がった。

「その笙香しょうかの結果が出るのは、何日後だ?

 時間がもったいない。

 試験が近づけば俺も自分の勉強がしたいけど、今ならいいぜ。

 文字式とか方程式とかの基礎の問題は、今から鍛え出しても問題ないはずだ。

 自信のない奴は、今日から残れ。

 これから毎日10問ずつやれば、100問近く解けるし、基礎力が上がる。

 そうすれば、笙香たちの得てきた情報がもっと活かせる。

 昨日、俺、変なこと言っちゃったけど、挽回させろ」

 謝るのも偉そうだな、荒川。

 でも、すごく前向きな提案だ。


「聡太、わかった。

 協力するけど、私とヨシフミは、さらに自分自身の点を伸ばす努力をする前提で。

 それでもいい?」

 と、これは瑠奈るいな


 本郷、大きく頷いた。

「よし、部活は今日までだ。

 帰りにいろいろ準備して、明日から戦闘開始。

 荒川の提案に乗るヤツは、今日から頑張れ。数学のテストで、最初の単純な計算問題がきちんとできるだけでも、確実に点が伸びると思う。

 みんな、いいな!?

 敵は、一組。……じゃなくて、一組の担任の学年主任の川本だ。

 特に化学。アイツの教科でアイツのクラスを超える。

 アイツのメンツをぶっつぶせ!

 いいなっ!」

「おおーっ」

 本郷の締めの言葉に、クラス中が一つになった気がしたよ。



 − − − − − − − −


 帰り道、途中まで瑠奈と一緒。

 笙香は一緒じゃない。

 僕たちが帰るとき、笙香は他の女子たちと作戦会議をしていた。今頃は、職員室で手分けして、諜報活動をしている頃だ。

 あの洞察力と行動力は、ちょっと怖いくらいだよね。

 絶対、中間テストの問題、何問かは探り出してくるに違いない。



「ねぇ、瑠奈さん。

 なんか、僕、まずいことを言ったかな?」

 まずはそう聞いてみた。

「別に、そういうのはないよ」

 ちょっと安心したよ。

「じゃあ、昨夜、もう一回考えたんだけど……」

「待って。

 それ、保留」

 もう一度告白しようとして、僕、ストップを掛けられた。

 やっぱり、なんかあるんかな?


「えっ、なんで……?」

「中間テストが終わったら、あらためて聞くから。

 私ね、大切なことを見落としてた」

「えっ、なにを?」

「試験が終わったら話すね。

 私、勉強するから。

 じゃあね、ヨシフミ」

 そう言って、瑠奈、僕を置いて駆け出す。


 うーん、体育祭のときの走りは偽装かぁ。

 ストライドが長くて、滞空時間が長い。

 まだまだ余裕を感じさせる走りなのに、スピードも桁違い。時速60kmくらいは出ているように見える。

 誰かに目撃されなきゃいいけど、ニオイとかも含めて安全だと判断しているんだろうね。

 これで、手をついて4本足での走法になったら、もっともっと速いんだろう。

 蝙蝠の姿になった僕でも、その姿だからの制限がある。蝙蝠の翼じゃ、時速100kmなんか出せない。

 本気の瑠奈には、絶対に追いつけないなぁ。

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