第7話 ヴァンパイアの母


 で、瑠奈るいな、一体全体、なにを見落としていたっていうのかな。

 僕よりいろいろなことに経験豊富で、頭がいい瑠奈が、そうそうなにかを見落とすってのも考えにくいけどね。

 今は教えてくれないって言うんじゃ、しょうがないよ。


 うーん、僕も勉強しよう。

 これだけ周りがやる気になってクラス全体が底上げする中で、僕だけのほほんとしていると、足元すくわれそうだし。



 で……。

 そんな、勉強する気に水をぶっかけたのが母さんだった。


 うちに入ったら、母さんが待ち構えていた。

「ヨシフミ。

 試験も近いんでしょう?

 今朝の寝坊しているアンタを見て、母さん、これじゃいけないって思ったの。

 今日から、きちんと生活習慣を整えますからね。

 夜は寝る!

 朝は起きる!

 リズムがきちんとした生活を送れば、成績だって維持できる。

 いいわね、ヨシフミ!」


 母さん、よくない。

 それ、僕、死ぬ。

 なんでそんなに、人間の常識を僕に押し付けるんだ。

「母さん。

 試験前にペースを崩されるのは、それこそメイワクだよ。

 それを強要するならば、僕、もうご飯食べない。

 二度と食べない。

 それでいい?」

 そう言ったら、母さん、ひどく傷ついた顔をした。


 いや、あのね、僕にとっては母さんの提案こそが生命に関わるんだけどさ。

「ヨシフミ!

 父さんに話しますからねっ!」

「わかったよ。

 どうぞ」

 確かにそっけなかったよ。

 でも……。他に言いようは思いつかなかったんだ。

 もう、好きほど父さんに言いつけてくれよ。


 母さん、ぷりぷり怒りながら居間の定位置に座り込む。

 僕も自分の部屋に引っ込む。


 なんかもう、勉強するって気が身体のどこにも残っていない。

 いよいよ、家から出ることを考えなきゃかも。

 思っていたよりも、ずっと早いけど。

 もう、どうして良いかわからないよ。


 母さんは、校内1位の成績とっている僕に、なんで更に不満を持つんだろ?

 こんなところで満足してくれないかな、自分の息子に。



 まだ、日の光は空に残っている。

 せめて、今のうちに少しでも寝ておかなきゃ。

 人間の感覚で言えば、明け方、朝日が上っちゃう前に、ちょっとだけでも寝ておきたいってのと同じだ。

 そう思って、うとうとしたところで父さんが帰ってきた。


 車の音がして、玄関が開く。

 そして、母さんがなにかを言っている声。

 なんというか、こう、暗澹たる気持ちになるね。


 瑠奈るいなへの告白もうまく行かなかったし、もう、プライベートはさんざんだよ。

 なに一つ、うまく行っていないって気すらする。



 足音。

 父さんだな。

 思わずため息が漏れた。

 そして、ドアが開いた。


「ヨシフミ。

 ご飯は食べなさい。

 じゃ」

 そう言って、父さん、ドアを閉めかける。

「『じゃ』って……。

 父さん、母さんから聞いただろ?

 父さんはどう考えているのさ?」

 思わず、聞いたよ。


 父さん、ドアを半閉じのまま言う。

「俺からしたら、どうでもいい」

「は?」

「『どうでもいい』って、言ったんだ。聞こえなかったか?」

「えっ?」

 あまりに予想外の返事に僕、ちょっと反応できなかった。

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