第35話 戦略、作戦
「ということはさ。
ヴァンパイアは絶対的な恐怖になりうるよね」
と瑠奈。
うん。
言いたいことはわかる。
僕が絶対的な恐怖となったら、これからこの雉島に襲いかかってくる敵を誰も殺さずに追い返せる。
それ自体は無謀なことじゃないって、自分自身でも思うよ。
ただ……。
問題はそんなに簡単じゃない。
お姉さまの基本的な作戦目的は、徹底した敵同士の同士討ちで相手の勢力を削るとともに、敵組織の情報を得るってことなんだ。
僕が今、ここで相手を怖がらせて追い返しても、中途半端な恐怖の与え方じゃ敵の勢力は減らないし、情報も得られない。
つまり、単なる先延ばしにしかならない。
お姉さま、今回のことにキリが付いたらドイツに帰ってしまう。そして、僕と瑠奈が日本に取り残される。その前に、敵を完全にばらばらにしなきゃいけないんだ。
お姉さまも、そこまで考えているに違いない。
だから、やるとすれば単に脅かす程度じゃ駄目だ。徹底してやらないと。
敵内部の数人だけを洗脳して同士討ちを起こさせるだけじゃ、結果的に人殺しが起きてしまう。これじゃ、やらないほうがマシだ。
誰も死なないようにやるからにはさ、来る敵全員を死ぬほど怖がらせるか、完全に支配下に置くか、洗脳しつくすか、そのどれかが必要なんだ。
いよいよだけど、敵の誰かの血を吸って完全に支配下に置くとか、赤い目の技で洗脳しつくすとか、そんな方法が必要に……。
今まで逃げてきたけど、いよいよその領域に踏み込まないといけないのかも。
そして、それはまた、僕という存在が敵に知られてしまうことにもつながりかねない。
正直言って、気が重いなぁ。
とんとん。
僕、胸のあたりを突かれて我に返った。
「ヨシフミ。
あんた、なに沈み込んでいるのよ?」
「だって……」
「『だって』って、アンタはガキか?
私も協力するよ。
ヨシフミ、独りで戦おうとして、考えが袋小路に入っているでしょ?」
ああ、そっか。
考えてみれば、瑠奈だって260年生きてきても、人を殺したことはない。僕と同じ考えになっていてもおかしくないよ。
2人揃って考えが甘いってお姉さまに怒られるかもしれないけど、お姉さまの考えが、辛すぎるんだ。
今までは敵も考えが辛くて釣り合いはとれていたんだろうけど、これからの戦いは真祖のヴァンパイアの僕がいる。
多少考えを甘くしても瑠奈と共同戦線も張れるし、五分五分以上に持ち込めるんじゃないかな。
「今回の目標は、相手の勢力を同士討ちで削って、それから敵組織の情報を得ることだよね。
つまり、同士討ちをさせなくても、勢力を削れさえすれば人が死なない戦い方だっていいんだよね?」
「どういうこと?」
僕、聞き返す。
なんか久しぶりに、瑠奈が強気の国の住人に戻ってきた気がした。
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