第36話 集結、出航


 独自の3つの部隊が密かに集結し、それぞれが船を確保して海に乗りだしつつあった。

 どの部隊も、一度はヘリコによる空路を検討したものの、断念していた。理由は簡単である。

 東京の複雑な航空管制の中、さらにアンタッチャブルなのが米軍周りの空である。雉島はあまりに横須賀海軍施設に近すぎた。

 武装した集団が空から近づけば、それぞれが目的を達する以前に撃墜される危険すらあった。

 そのような装備はどこも所有していなかったが、潜水艦で近づいても同じことが起きただろう。

 高度な交通手段は、それ自体が脅威を与えるものなのだ。


 結局彼らは、出発場所こそ神奈川、千葉、東京と分散することになったが、海上を東側からもしくは南側から近づくしかなかった。



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 日本国内の互助結社組織から依頼を受けた10人の傭兵集団は、成田空港から内房に移動し、そのまま用意された船に乗った。

 練度の高い彼らに支払われた依頼額と同等の額が、急ぐための時間短縮に対して支払われていた。

 武器弾薬類から装備類にいたるまでがグアムから同時進行で急送され、乗船前に手渡されるという性急さだった。


 そして、ここまでの性急さが、彼らの作戦を縛った。

 拳銃の使用は問題なくとも、長距離ライフルは照準調整ゼロインする間もなく、船内でようやくアサルトライフルのみが完動を確認できた。

 他の装備も調整済みとは言われたものの、誰もそれを信じてはいない。自分の使う武器は、自分でメンテしてこそ信頼の置けるものになるのだ。

 ただ、敵の装備の貧弱さと練度の低さ、そして抱え込んでいる資産の価値の高さのアンバランスさが作戦決行の判断をさせていた。


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 同じ頃。

 久里浜から観音崎を回り込む海路を取る、15人の集団がいた。

 彼らは、愛知を本拠地とする反社会的自由業の集団だった。

 集団戦闘の練度は高くないが、個々の外国の射撃場での経験は豊富だった。

 さらに、組織として麻薬の流通ルートも持っていた。

 億の単位の薬がほぼ無防備で放り出されているとなれば、回収に行かない手はない。


 情報は、離れた業界から来た。

 彼らの生業からして、常時殺しのみを専門にする人間がいるわけではない。だが、その業種と繋がりがある人間はいるのだ。

 この情報が、どれほどの確度かはわからない。また、自分たちが踊らさせるためだけに流された情報かもしれない。だが、たとえそうであっても、リスクに比べてリターンがあまりに高い情報だったのだ。


 彼らの武装は統一的なものではなかったが、根拠なき自信に満ちた士気は高かった。

 彼らはすでに、帰りの航路で死体を沈めたあと、どこで打ち上げの飲み会をするかの話題に熱中していた。



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 最後の集団は、東京のマンションの一室で、7人が水タバコのパイプを回し飲みしていた。出撃前の儀式である。

 日本国内に設けたばかりの彼らの組織の基地は襲われ、装備も儀式に使う薬もすべて持ち去られていた。

 未だ持ち去った者の素性は明らかになっていないが、裏切りという線は薄かった。なんといっても、薬で心神喪失状態なのである。

 彼らの救出に失敗すれば、少なくとも組織の日本支部は存続できない。

 薬の摂取間隔が空けば、洗脳も解けてしまう。


 雉島に、人員だけでなく奪われた装備も儀式に使う薬も運び込まれたという情報が本国からもたらされ、彼らは日本にいる残存全人員と装備を集め、背水の陣で奪還する覚悟を決めたのだ。

 もっとも、覚悟を決めたのは2名、それ以外の5名は心神喪失状態のまま戦うことになる。


 とはいえ、一旦人質を開放しさえすれば、自分たちが最大の戦力になることは計算のうちにあった。


 ただし……。

 最大の不安材料は、自分たちが暗殺のみに特化した集団であるという自覚だった。サーチ・アンド・レスキューなど、想定したこともないのである。

 どうせ狭い島だしなんとかなる、という出たところ勝負の投げやりな基本戦術を採らざるをえない理由はそこにあった。


 とはいえ、彼らは人数が少ないため、小型高速船が使用できた。

 一気に雉島に向かい、襲撃時に小回りが利くことは最大のアドバンテージである。

 帰りはチャーターし、待機させてある漁船でゆっくり帰ればよいのだ。

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