第33話 懊悩、嫌悪
さて。
敵が来る。
基本戦略は、できるだけ敵同士で戦わせて、最後は漁夫の利を得ること。
つまり、避けなければいけないのは、僕たち自身が全部の敵と戦って、すり減らされて負けること。
となると、大切なのはやっぱり隠れていること。
そうすれば敵同士が遭遇して、勝手にどんぱちしてくれるからね。
で……。
隠れる場所も確保した。
最終局面になってから出場する、シード権も確実に行使できるだろう。
すべてを終えたあと、僕たちが脱出するルートも問題ない。運転手してくれたおじさんがいるからね。
その場その場で臨機応変に対応は求められるだろうけど、体制は整った。
もう、安心していていい。
となると……。
やっぱり、心が疼きだす。
僕、やっぱりダメだなぁ。
真祖のヴァンパイアの僕からすれば、人間の命なんて食用家畜とおんなじはずなのに。
同士討ちであっても、大量の死傷者が出るってことについて、どうしても心のなかで引っかかっちゃうんだよ。
今、僕の隣で腹を減らしてごろごろしている捕虜の面々も、「今日の夕方までの命なんだな」って思ったら、やっぱり冷静でいられない。
やっぱりさ、僕、真祖のヴァンパイアになるの早すぎたのかもしれない。
こういうときに、「しかたない」って言い方で納得できる歳になってから、ヴァンパイアになればよかった。
中学の時から、いつもいつも「ヴァンパイアになるの早すぎた」って後悔しているな、僕。
お姉さまは600歳。きっと、こんなこと、うだうだ考えない。そもそも100人を超える人を殺して食べているんだし。贖罪の祈りを続けていても、メンタルの強さ自体は桁違いだろうな。
瑠奈だって260歳。きっと、こんなこと、割り切るための心の準備ができているんだろうな。とうの昔に。
比べて、17歳になったばかりの僕の高校生メンタル、やっぱりよくないよなぁ。迷い出すと止まらない。
僕、お姉さまは怖いから、瑠奈にひそひそ話しかけた。
今からでも、「死傷者を1人も出さずになんとかする作戦」は考えられないかな? って。
瑠奈、僕のことをしげしげと見て……。そして、一言。
「気持ちはわかる」
って。
そか、瑠奈、わかってくれるのかー。
僕、嬉しくなって、なんとかなるかもってちょっと浮かれたよ。
でも、次に瑠奈の口から出たのは、それを否定する言葉だった。
「武器を装備した、訓練を積んだ、そしてその気になった連中が戦わないなんて絵物語だよ。
それも、戦う動機が欲と二人連れなんだし。
ま、とんでもなく強大な敵でも現れたら、それどころじゃなくなるだろうけど……」
……やっぱり無理かぁ。
心の片隅では知っていたけどね。
僕、正直言って、がっかりした。同時に反省もした。
僕を本気で殺しにくる相手に、気の迷いを見せちゃダメだったよなって。
でも……。
嫌だなぁ。
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