第13話 吊るし上げられるヴァンパイア(物理)


「それにしても、瑠奈るいなのお祖母ばあちゃん、信頼されているんだね。

 僕の監視を任されるなんて、さ」

「私もそう思ったから聞いたけど……。

 あの人、唯一C.R.C.を覚えている直系の幹部なんだって。そりゃそうよね、600年経っていればみんな死んじゃってるだろうし。

 元『パリの狼』だからって、遠慮はしているみたいだけど、200年。いや、トータルでは320年もC.R.C.のお墓を守った人だもんね。

 ある意味、信頼されていて無敵みたいだよ」

 うーむ。

 僕も含めてだけど、人ならざるものは強いなぁ。

 でも、そこはかとなく、忠犬ハチ公っぽくもある。



「わかったよ。

 瑠奈のお祖母ちゃんなら、僕のことを世界征服の道具にしたりはしないだろうから、任せるよ」

 僕、そう決断する。

「ヨシフミ、信用しちゃっていいかはわからないよ。

 だって、まだ私、一度も会ったことがない。

 電話では話したけど、今でも祖母と話したという実感はないんだよね」

 ああ、いくら血が繋がっていても、産まれてから260年、初めて会う相手だもんね。


 で、笙香しょうかについて……、は、いつ?」

 あいまいな言い方になったのは、治療するわけじゃないし、かといっておまじないよりは効果があるし、処置なんて言葉もそぐわない気がして、なんて言っていいのかわからなかったからだ。


「明日。

 明日、笙香に私のうちに寄ってもらう。早いほうがいいからね。

 ヨシフミは、明日で大丈夫?」

「うん。

 僕は大丈夫。

 合わせるよ。

 ってことはさ、瑠奈のお祖母ちゃん、明日辺り日本に着くの?」

 僕の背も、明日から再び伸び出すのかな。

 ちょっと期待しちゃうよ。


「早々に現地を立つって連絡はあったから、住所は伝えたけど。

 どんな姿かも知らないし、赤の他人とは言わないけど、ピンクの他人ぐらいではあるよね。

 さっさと済ませちゃわないと、私だって気詰まりだからねー」

 そう言って、瑠奈、屈託なく笑う。


 僕も一緒に笑いかけて……。

 いきなり視野が高くなった。

 えっ、て思ったら、瑠奈も……。


 僕は右手で、瑠奈は左手で後ろから首を掴まれて吊るし上げられていた。

「おバアちゃんだの、信頼できないだの、ピンクの他人だの、言ってくれるじゃない?」

 微妙に巻き舌が残る発音。


 振り向こうにも、うなじを掴まえられて持ち上げられていると、全然無理。

 ぽんって放り出されて、瑠奈と一緒につんのめりながら着地して、ようやく振り返ったら、ペネロペ・クルスみたいなのがいた。

 かっちりとスーツを着こなして、どうみても20代後半。

 綺麗すぎて、目が離せない。


「えっ、だれ?」

 瑠奈が呆然とつぶやく。

「だれって聞かれりゃ答えるけど、あんたのばーさんだよ。

 わからないかいっ!?」

「……だって」

 と、これは僕。


「2000年以上も生きるんだから、600歳なら、人間換算で30歳近辺なんだよ。

 なにを想像していたんだい?

 『だって』のあとを、言ってみな?」

 い、言えるもんかぁっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る