第12話 想像力豊かなヴァンパイア


「たぶん、ヨシフミ、そう言うんじゃないかと思った。

 今日一日、悩んでいたもんね。

 ちゃんと取引条件は聞いてきたから、答えるよ」

 瑠奈るいなの言葉に、僕は頷く。


「薔薇十字団に人たち、長寿ではあるけど、人間の範囲。

 私やヨシフミとは違う。

 技術はあっても、そこまで生きようとしていない。C.R.C.だって、不老長寿の術はあってもそれを使おうとはしなかった。『全世界の普遍的かつ総体的改革』を目指し、不老不死を理想としても、自分たちだけが救われようとはしていないのよ。

 つまり……」

 そこで、瑠奈、黙り込む。


「つまり、どういうこと?」

「ヨシフミを見張り続けるのは、無理ってこと。最低で1000年は生きられる存在でないと、ね。

 彼らの目指す不老不死は、ヴァンパイアになることじゃないから、どうしても限界がある。

 だから、ヨシフミの監視は、外部に委託するしかないって」

「なんか、ますます嫌なんですけど。

 僕が真祖のヴァンパイアだってことが、どんどんいろいろな人にバレちゃうじゃん」

 なんか、話がどんどん大事おおごとになっていくなぁ。


 そのうち、YouTuberとか、テレビとかが取材に来たらどうするんだ?

 墓石と聡太が、首から下だけを映されながら、「体育祭のときから変だと思ってました」とか答えているのが想像できるよ。

 


「で、委託って、1000年の長生きする人たちがいるの?」

「……委託先は、私の祖母」

「……はあっ!?

 僕の理解が間違っていなかったら、600歳近いだよねっ?

 行方不明だったんじゃなかったっけ?」

「それが……、さ。

 母を見捨てたみたいになっちゃったのを後悔して、200年も前から放浪をやめて、C.R.C.のお墓を守っていたんだって。

 で、『孫に合わせる顔がない』って思っていて、そこにいるってのをずっと私に伏せていたらしいんだけど、今回の件で……」

 そこで、瑠奈、なぜか耳まで赤くなった。


「……今回の件で?」

 僕は確認がてら、先を促した。

「孫の彼のことだから、ここでようやく祖母らしいことができるって……」

 孫の彼っ!?

 あわわわわ、その言い方だと、僕もいろいろ意識しちゃうよーっ。



「つまり、瑠奈のおばあさんが、孫のために僕を監視して、必要に応じて僕を抑え込むんだね?」

「……それだけじゃないんだ。

 ……ごめんね、白状するけど、私を泣かしたら、喰うぞって。

 いくらヴァンパイアが無茶苦茶な再生能力を持つとしても、107人を喰い尽くした狼の胃の中でも再生できるか、試してみるかって。

 なんかさ、260歳も超えて生きてきた私が、600歳を超える祖母に、子供扱いされるとは思わなかった。さすがに、異性とのお付き合いは早すぎるとは言われなかったけど、うっかりすると言いかねない勢いだったなぁ」

 ……ちょっとさ、いろんな意味で怖すぎるよね。

 600年も生きてきた過保護ばばに、日夜監視されるなんて。


 それに……。

 今のセリフ、瑠奈には言わなくても僕には言うかもしれないね。

 なんたって、僕はまだ13歳。

「異性とのお付き合いは早すぎる」って、黒いローブを纏った600歳の魔女に脅されるシーンが頭に浮かぶよ。

 自分で想像しておいて、くらりって、メマイがしたよ。

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