第44話 急襲、突撃


 そこへ、恐ろしい勢いで、で巨大な犬が一直線に走り寄ってきた。

 発見した者の声かけに、彼らは余裕を持ってアサルトライフルを構え、3点バーストで撃ち殺そうとした。

 だが、あまりに速い足のせいか、命中しない。


 犬の武器はまずはスピードである。そのスピードで牙を突き立られ、そのまま走り去られたら目も当てられない。牙を突き立てられる場所が首だったりしたら命に関わる。

 なのでまずは「いなす」か「止める」という行為が必要になる。


 遠距離での射殺に失敗した彼らは、走ってくる犬をライフルで組み止め、一瞬動きが止まったところで別の者が小回りの利く拳銃で仕留めるという方法を取ろうとした。

 複数の人間がいる強みである。

 ところが、その黒い犬は彼らを攻撃することなく、その脇をそのまま走り抜けてしまったのだ。


 当然、アサルトライフルの銃弾があとを追った。

 だが、黒い巨犬は軽々と岩場を走り、乱数機動かというほど複雑で先の読めない動きをしたあとで木々の影に姿を消した。

 いくら複雑な動きをしようとも、所詮は犬の動きである。距離があり、簡単に仕留められるはずなのに、複数人で撃ってことごとく外した。

 彼らの練度からして、こんなことはありえない。



 ふいに静寂が訪れた。

 お互いに顔を見合わせ、そして無言で首が横に振られた。

 弾が尽きたのだ。

 当たるはずの簡単な標的に当たらないという事実が、再び彼らに弾をばらまくという愚かな行動をさせてしまったのだ。


 敵の本隊に1発も撃つことなく、メインウェポンであるアサルトライフルの弾が尽きた。

 あとは着剣して格闘戦に使うしか使いみちがない。

 男たちの顔に、焦りが浮かぶ。

 敵はまだ、1発も撃っていない。もしも、彼我で同等の装備を持っていたとしたら、もはや拳銃と自動小銃では勝負にならない。


 そして、この状態で、敵が畳み掛けてこないはずがなかった。


 足元の砂が弾けた。

 撃たれた。

 弾幕は、彼らの進攻を止めるだけでなく、再び海に押し戻そうとしてくる。

 上陸させない、砂浜に相手を留めておくというのは、防御側として当然の作戦だ。

 ノルマンディー上陸作戦を引き合いに出すまでもなく、上陸側はいつでも不利なものだ。海辺には遮蔽物となるものがない。つまり、上陸側は万全の体制で待ち受ける敵に対して単なる的に堕すのだ。


 ただ……。

 彼らはもう海に近づく勇気は残っていなかった。正しい知識ではなく、映画などで得たサメの知識が、彼らを震え上がらせていたからだ。

 こうなると、装備も心理状態も体力さえもジリ貧の中で、生き残るためには目の前の森に前進するしかなかった。どれほどの被害を出そうとも、である。

 彼らは走った。仲間の半分は失うであろうことを覚悟して。


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