第19話 尋問、自白


 うだうだ絶望していても臭いだけなので、意を決して殺し屋の男を抱き寄せて霧になる。

 そして、敵の基地の建物から見えないところで実体化した、


 赤い目で男を見据えて聞く。

「お前を訓練した組織は、どこ?」

「中東の暗殺教団の分派。

 もう、元の組織の面影もない。

 特に、金を受け取って殺しを請け負うことに先鋭化したせいだ」


 話を聞けば聞くほど怖い。

 僕、人という存在と隔絶した真祖のヴァンパイアだから、その立ち位置に心を置けば、人間の殺し合いなんて嘲笑の対象にしかならない。

 でもね、真祖のヴァンパイアになってからですら学校に通い、友だちもいれば彼女もいる。そういった中で、僕の心がより人間寄りになるのは仕方ないことだ。

 大体、中学生でヴァンパイアになったときも早すぎたと後悔したけど、さらにこんなことに巻き込まれても、まだ僕、高校生だぞ。


 もしも、どこかに僕の後輩がいるなら伝えたい。

「真祖のヴァンパイアになるのは、二十歳を過ぎてから」ってね。


「お前を捕まえてから、火炎放射器を持った敵に襲われた。お前も見ているだろう?

 心当たりはあるか?」

「間違いなく、俺のいた組織だ。

 俺が逃げ出したところだ。

 しつこく追われたが、この国に来てからは奴らの姿を感じたことはない。今回が初めてだ」


 そうか。

 となると、脱走者を追うこの暗殺の組織と日本国内の互助結社組織、関係ができているってことだ。

 さらにいえば、お姉さまが邪魔で、この逃げ出した男にも制裁を与えたいという2つの目的の利害が一致した。

 そう考えれば、こういうふうに僕たちを襲う作戦にはなるだろう。


「お前のいた組織は、洗脳に薬剤を使う?」

「使う」

「それは、ハシーシュかな?」

「昔は」

「『昔は』ってことは、今は?」

「今はもっと確実な薬がある」

 うーむ、やっぱりね。

 僕の思ったとおりだ。


「あのさ、お前はなんで逃げたの?

 ってか、逃げられたの?

 薬が効かなかったの?」

「組織の上層部は世襲だ。

 実行部隊は誘拐された男だったり、よく知らないままに応募に応えた傭兵だったりするが、ほぼ5年以内に全員すり潰されて死ぬ。

 これは上層部の安定のために、欠かせないやり方なのだ。

 俺と仲間は洗脳された。そして、天の神の国に行けることを信じて疑わないまま、幸せな顔で死ぬ仲間を何人も見てきた。

 普段は無表情で感情を殺されているのに、死の瞬間だけは幸せそうなんだ。

 ふと、この表情は間違いではないのかと思ってしまったら、もうだめだった。

 自分の命おしさに必死で逃げ出した」


 怖っ。

 洗脳って、そこまでできるもんなんだ。


 僕の赤い目による人の操作も、洗脳のうちではあると思うけど、僕のは捕食者が獲物を操っているわけで、同族を操っているよりは罪が軽いとは思う。

 まぁ、やっていることは同じだし、操られる方の人は言いたいことがたくさんあるだろうけどね。

 例えば、トイレに行かせて欲しかった、とかだ。

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