第6話 ヴァンパイア、本当のぎゅう


「でね、生気プネウマが暴走したら、周囲を巻き込んで死の世界が出現するのよ。生気が放散して尽きるんだから、あたり前のことだけど」

 瑠奈るいなは続ける。


「あとね、ヨシフミ。

 中身と外見の境界は、そんな感じとしか言いようがない。

 逆に、いちいち意識していたら、変身しそこないそうだよ」

 なるほど。

 意識していたら変身しそこなうって、なんか説得力あるな。感覚的なもんなんだろうな。


「いくら払えばいい?

 リスクの説明はどこで説明を聞ける?」

 僕、一歩瑠奈に近寄る。

「急になに?

 変身したいの?」

「瑠奈、ダメだったらダメと言って!」

「……な、なに?」

 珍しく、瑠奈がちょっと怯えた表情になった。

 同時に、すさって立ち上がって、一歩距離を取る。

 あ、怖がらせちゃったかな?


「ねぇ瑠奈、聞いて。

 僕の考え。                         。

 中身と外見の境界って、結構深いところだよね。

 でも、フランス人と日本人で、瑠奈、表情違うし、それに……」

「それに、なに?」

 僕、言えなくて、思いっきり口ごもる。


「ほら、なに?」

「……胸の大きさが違う」

「真面目に聞いて損したっ!!」

「うるせー、最後まで、真面目に聞いてよっ!

 えっちな意味じゃなくて、違うから違うって言ってるんだっ」

「聞いているわよっ。

 で、なによっ!?」

 あれ、瑠奈も赤くなってるな。

 もー、本当に恥ずかしいなぁ。


笙香しょうか、まだ腫瘍は転移していないんだよね。

 体の奥の臓器だけで。

 なら、その臓器だけを瑠奈の中身と外見を分ける方法で切り分けて、ヴァンパイア化させたらどうだろう?

 この方法って、生体内で絶縁しているのに、生きるための物質は出入りできるんだと思う。生きるための物質が出入りできなかったら、顔の表情の筋肉とか、まぁ、その、さっきの胸とかの組織だけ死んじゃうと思うんだ。

 で、ヴァンパイア化した臓器ならば、死ぬまで腫瘍と共存しても病状が進むことはないし、転移することもない。

 臓器としての役割は、今と変わらず果たしてくれる。

 ヴァンパイアの最大の弱点は日光だけど、おなかの中の臓器が日光浴する心配は要らない。

 副反応だってないから、将来結婚して、子どもだって作れる。

 そして、最終的には火葬場で燃やされて、なんの痕跡も残らない。

 つまりさ、瑠奈と2人で力を合わせれば、なんとかなるかもしれないんだよっ!」

 僕、思いっきり力説。

 瑠奈、ぽかんって口を開けたままになった。


 そして、そのまま10秒。

「それ……。

 それなら……」

「うん、僕の考えに間違いがなければ……」

「いける!

 いけるよっ!」

「本当にいける?」

「いけるっ!!」

 瑠奈、体当りするみたいに僕に抱きついてきた。


「ヨシフミ。

 すごいすごい。

 本当にすごい。

 私、初めて運命っていうのに、一矢を報いられた。

 すごいよ、ヨシフミ」

 瑠奈、満面の笑顔だったのが、だんだんに泣き顔になる。


「大丈夫?」

「うれしい。

 ヨシフミ。

 ありがとう。

 嬉しくっても、泣けるんだね……」

 瑠奈、僕の首筋に顔を埋める。


「瑠奈、まだ終わってない。

 薔薇十字団の人が力を貸してくれなかったら、そもそもどうにもならないし……」

「……ヨシフミ。

 いつの間にか、しれっと呼び捨てになったね」

「あ、ごめんなさい」

「いいの。許してあげる」


 ええっ、ホントですか?

 もしかして、しかたなくじゃなくて、僕を彼氏として認めてくれるんですか?

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