第13話 僕は手品のネタを仕込んではいない


 部屋中で、わあああって感じで歓声が湧いて。

 したら、笙香が、テッシュペーパーでこよりを作って渡してきた。


「ほら。

 指輪とかないけど、象徴できるものがあればいいんでしょ。

 あとで本物に換えるとして、今はこれしかないから瑠奈の指に巻きつけて……」

「笙香、ひどいっ。

 それじゃ可哀想でしょ。

 リングなんだから、せめて金属にしないと」

 って、おいっ、杉木さん。

 それは金属だけど、アルミホイルをくしゃくしゃにして、輪っかにしたもんじゃないか。

 どっちにしてもヒドいなぁ。


「ヨシフミ、わがまま。

 じゃ、ヨシフミの髪の毛むしって、輪っかにしようか」

「むしらないでくれっ!」

 僕、逃げ出しながら叫んでいた。

 ヴァンパイアの治癒能力は、髪の毛の長さまでは復活させてくれないんだよ。切られたら、元の長さになるのには普通に数ヶ月はかかっちゃう。


 で、必死に考えを巡らせて……。

 ああ、僕のポケットに入りっぱなしの、いい答えがあった。

「これを……」

 僕、瑠奈にプレゼントしようと思って買って、今まで渡しそびれていた小さな箱をポケットから取り出す。


 そう、薄い紫色の箱。

 中には、イヤリング。

 白い貝殻の、ではなくて、サファイアとプラチナの輝きがある。

 僕が稼いだ1000万円で、奮発して買ったんだ、コレ。指輪じゃないけど、それでもね、テッシュやアルミホイルの輪っかよりはマシだろ。

 で、このイヤリングとセットになるデザインの指輪の方は、まだ渡す勇気なんかないから僕の部屋に置きっぱなしだ。


 ずーっと僕は、瑠奈にこれを渡したかった。

 なのに、これを渡す寸前で父さんが病院に担ぎ込まれた連絡が来たりして、その機会がなくなっちゃっていたんだ。

 で、その後も2人きりのときに、それこそいい雰囲気になったときに渡そうと思っていたんだけど……。お姉さまが、瑠奈の家に居座っちゃっていたからね。孫が可愛くて、ドイツに帰る気がなくなっちゃったのかもしれない。

 だから、そのまま僕、機会を窺い続けていたから、コレ、ポケットに入りっぱなしだったんだよ。


 でもさ、2人きりのときに渡すつもりが、こんなにみんながいる中で渡すことになるなんてね。

 でも、なんか、それもいいかなって思い返したよ。

 結婚式のときだって、証人が必要なんだよね。

 渡すものが指輪じゃなくてイヤリングだけど、それだっていいじゃん。

 それを、元クラスのみんなを証人にしてっていうの、悪くないよね。


 僕の取り出した薄い紫色の箱を見て、部屋の盛り上がりは最高潮に達した。

「なんだ、あるんじゃん。

 持ち歩いているあたり、いいとこあるね、ヨシフミ」

 うるさいぞ、笙香。


 こういうとき、僕は跪かないといけないのかな?

 まあいいや、とりあえず渡そう。

 僕、その箱を開けてそっと瑠奈の方に差し出そうとして……。

 こんなに驚いたことはない。

 なんで、箱の中身がイヤリングじゃなくて指輪なんだっ!?


 部屋中で口笛と歓声が響く中。

 涙ぐんでいる瑠奈の前で、僕は呆然としていた。

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