第8話 1人では勝てないヴァンパイア


 翌日、月曜日の朝の学校。

 瑠奈るいなはまだ現れない。

 笙香しょうかが、勝ち誇ったようににへにへ笑いながら言う。

「ヨシフミ、昨日はお楽しみでしたね。

 どうですか?

 キスぐらいまでには持ち込めましたか?」

「うんにゃ。

 お茶を御馳走になっただけで、帰ってきた」

 ちっ。

 大声で聞くもんだから、クラス中が耳をそばだてているじゃねーか。


「なんもしなかったん?

 いや、なにもできなかったんだよね?」

 だからうっせーよ、お前さんは。比喩抜きで、腹に一物ある奴は、言うことが違うね。少なくとも一物の方は、近いうちに黙らせてやる。


「あれっ、ヨシフミ、黙っちゃったけど。

 もしかして、マジ?

 『お茶だけで、帰ってきた』って、平手打ちでも食らった?

 さっき、瑠奈は『先に学校に行っていて』って言うから、置いてきちゃったんだけど、もしかして泣かすようなことした?

 だとしたら、許さないよ、このケダモノっ」

「なんなんだよっ?

 さっきまでは、焚き付けていたくせにっ。なんで笙香はいつもそういう感じで、僕にきつく当たるんだよっ?」

 内心、ケダモノは僕じゃなくて瑠奈だと思いながら、反撃してみる。


「娯楽で済むなら焚きつけるけど、被害が出てたら非難する。

 当たり前じゃん。

 私だって、デートを勧めた責任があるし、根掘り葉掘り聞いておかないと」

 ……こいつは、ホントにもうっ!


「本当に、瑠奈のこと、泣かしていないんでしょうね?」

「……泣かしてない」

 実は泣かせた。

 嬉し泣きだけど。

「ヨシフミ、今の、ちょっと嘘っぽかった」

 ったく、変なところで鋭いんだから。ホントもう、コイツはさ。



 そこへ、瑠奈が登校してきた。

「おはよう」

「おはよう、瑠奈さん」

「瑠奈でいいよ」

 瑠奈の語調はとても軽かったのに……。


 ざわっ。

 ほら、クラス中の注意がこっちに向いちゃったじゃないか。


「えっ、一体なに?

 なに、この雰囲気?」

 いつになく、瑠奈が焦って聞く。

「いや、この笙香バカが余計なこと大声で聞いている最中だったから……」

「バカとはなによっ?

 心配していただけじゃないっ」

 あ、瑠奈、察したな。でもって、深々とため息を吐いたね。


「……笙香、あのね、アンタが期待するようなことはなかった。

 お茶飲んで、笙香はいい娘だよねーって、話していただけ」

「えっ、なんですと?」

「そう。

 なんで彼ができないのか不思議だよねって、話していたんだよ。

 もっとも、笙香、アンタにはわかってるんじゃない?

 そういうとこだぞ、って」

 ずごごごごごっ。

 最後の一言に合わせて、圧力、そして圧迫、さらに威圧。


「ちっ、ちっ、ちがわいっ!

 瑠奈、ヨシフミ、おぼえていろよーっ!」

 あっ、笙香、走って逃げた。

 それはもう、ドップラー効果が出そうな勢いで。

 すぐにホームルームだから、戻ってくるだろうけど。


「いつもながら、余裕あるよね。

 きちんと、定型セリフ忘れないもんね」

 いや、それはあんたらが、こういう勝負を毎日やっているからだろ。

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