第14話 到着、潜入


 車の速度が落ちた。

 そして、そのまま高速道路を降りたんだと思う。

 えんえんと右にGが掛かったから、インターチェンジだと思うよ。

 で、そこから細い道をくねくねと走る。信号待ちもなく、右へ左へと揺られるのは道が細い証拠だと思うんだ。でもって、アップダウンも激しい。

 そして……。海の匂いだ。



 車が止まった。

 長い銃は後部座席に放り込むのを見ていたから、トランクが開けられる心配はない。

 僕は、ただ息を殺して、足音が遠ざかるのを待つ。

 それから……。

 なんか、ため息が出た。


 汗臭い濃い顔の殺し屋のおじさんに抱きついて、霧化しないとだ。瑠奈るいなと距離を縮めるのはあんなに楽しかったのに……。なんか、この世の終わりみたいな気持ちになるね。

 いっそ、このまま置いていこうか。どうせ、僕の命令がなきゃ、自発的な行動はしないんだから。


 いいや、置いて行っちゃえ。

 僕の声がかかるまで、そのままずーっと寝ていなさい。



 僕、トランクの狭い隙間から、自分だけ身体を霧にして染み出させる。

 それから周りを見渡すと、斜面に建った家。

 眺めはよくて、星と月が明るい。そして、夜の海と、そこを航行する船の明かりが見える。なんか、いい情景だなぁ。

 

 で……。三浦半島だな、ここ。

 沖合いにうっすら見えるの、大島だと思う。千葉だったら、あんな大きい島見えないし。それに加えて、北極星から推測して、海が見えているの西側だってわかるし。対岸が暗いのは伊豆だと思う。千葉から見て神奈川の対岸だったら、もっと明るいよ。



 さて。

 再び潜入だ。

 西斜面に建った家を探る。

 こういうの、2回目だ。

 で、1回目のときは高断熱住宅だったんで、入り込む隙間を探すのに苦労した。

 今回は楽。

 軒天の下に、すぐに入り込める穴を見つけたよ。



 さてと思ったら、立て続けに2台の車が到着して、6人の男たちが家に入っていく。トランクから下ろしたのは、さっき使った火炎放射器だよね。

 これで、ここが間違いなく敵の基地だって確定だ。



 さて、行くぞ。

 人数が増えれば、会話が増える。

 会話が増えれば、漏らされる情報も増える。

 だから、この事態は歓迎だよ。

 しかも、敵全員の顔をよく見ることができる。

 もしも、瑠奈が殺されていたら、仇を打ってやらなきゃだ。



 天井裏から押入れの中に移動して、ちょこっとだけふすまを開けて部屋の中を覗く。

 なんか、交代でシャワーを浴びているらしいし、なんか食事を作っている人もいるみたい、

 レポートかな、一心にノートパソコンに向かって字を打ち込んでいる後ろ姿もいるし、すっげー静か。これじゃ、情報が得られないよ。


 でもって、全員がなにかしらに熱中しているのを見て、僕、ちょっと大胆になった。

 霧の身体で、部屋に入り込み、ノートパソコンを覗き込んだんだ。

 ……アラビア文字かな、これ?

 全然読めないぞ。

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