第16話 ヴァンパイアに現れた仲介の女神


 考えておくべきだったよ。

 瑠奈るいな笙香しょうかは、一緒に登下校している。

 だから、このタイミングで笙香が現れることもあるって、さ。

 それにしても、スルースキルを発揮してくれればいいのに、わざわざ話に加わって来ますか?


「瑠奈。

 ヨシフミ、頑張っているじゃん。

 それに免じて許してあげたら?」

 笙香さん、ま、まさか、僕の味方をしてくれるんですか?


「瑠奈が、ヨシフミのことを嫌いならば仕方ないけどさ。

 お義理でも、付き合ってもいいかなって思ったんだったら、ヨシフミの言い分も聞いてあげなよ」

 僕の味方というより、ただ単に公正なのかもな、笙香。


 瑠奈、大きな目を瞠るようにして僕を睨んだ。

 ヤバいな、こういうのに僕、弱い。

 すっごく可愛い。

 笑顔も可愛いけど、それ以上に怒りかけみたいに感じるくらいマジな表情、たまらない。その目に吸い込まれてしまいそうだ。


「じゃ、そういうことにしてあげるけど、覚悟しとくのよ」

 なんの覚悟だって言うんだろう?

 なんにしたって、頑張るよ、僕。

 嬉しすぎて、手足がぎくしゃくするけど。




 そこで、笙香が再び口を開いた。

「ヨシフミ、アンタね、見ちゃいられない。

 告白ってのは、ぐいぐい行けばいいってもんじゃないでしょ?」

「は?」

「瑠奈だって女の子なんだから、それなりに夢を持っているのよ。

 少しはそれをかなえるように告白しなさいよっ!

 瑠奈だって、返事しにくいでしょっ!」

 ……言いたいことはわかったけど、今、この場で指導が入るとは思わんかった。


「いや、誠意を見せなくちゃって思って……」

「そうかもしれないれど、それにしても『好きだ』って、それだけを1万回言うなんて、馬鹿でしょっ」

「……はい」

「きれいだとか、可愛いとか、女王様にお仕えしたいとか、言い方はあるじゃん?」

 いや、最後はないっ! それはないぞっ!

 瑠奈、笑い転げている場合じゃないっ!


「ほら、ヨシフミ、練習!

 きれい、可愛い、お仕えしたい!」

「えっ!?」

「アンタ、繰り返しなさいよっ。

 ほら、『きれい、可愛い、お仕えしたい!』 ほらほら、さっさと言いなさい」

「えっ、きれい、かわい……」

「なに、赤くなって口ごもってんのよ。

 ほらっ!!」

「……瑠奈さん、笑ってないで、助けてよー」


「やだ。

 ヨシフミ、アンタ、自業自得。

 笙香のことを、『器用さと要領の良さだけで世の中渡っている』なんて言うんだもん。

 ヨシフミ、世の中にはね、本当だからこそ、言っちゃいけないことってあるのよー」

「瑠奈、あんた、私を裏切りやがったわね!?」

「1日1回、笙香のことを裏切ってるもん、私。日課だし」

「瑠奈っ!!」

「大丈夫、今日の分はこれで終わったから」


 ああ、もうどちゃくそワケがわからない。

 僕の告白はどうなったんだ? 「じゃ、そういうことにしてあげるけど、覚悟しとくのよ」って返事があったから、上手く行ったってことでいいんだよね?

 

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