第15話 身体を霧にできるヴァンパイア


「だから、待てよ。

 話を聞けよ。

 嘘なんかついてない。

 瑠奈、お前のこと、大切にするからさ」

 押すねぇ、荒川ー。

 でもってお前、いきなり名前呼びかよ。まだ僕なんか、「内川さん」としか呼んだことないぞ。

 う、羨ましくなんかないんだからな!


「ふーん。

 有彩ありさがさ、そう言われて付き合って、酷い目にあったって話を聞いてるけど」

「誤解だ。

 そんなこと、絶対ない。信じてくれよ」

 うん、クラスの男子、誰ひとり信じないだろうなぁ、その言い分。

 女子がなんでそれをほいほい信じるのか、男子の間では永遠の謎になっている。


 でも、瑠奈の声は変わらず冷たい。

「じゃあさ、条件出すよ。

 ヨシフミくんがさ、この間、学年3位以内になるって約束したらさ、1位になったよ。

 アンタ、地頭がいいって言っているんだし、次の中間テストでヨシフミくん超えられる?

 そしたら、お試し期間を作ってもいいよ」

 えっ、僕に勝つのが条件なん?


「あんなのに敗けるわけないだろ。

 ヨシフミ、徹夜で勉強しているらしいけど、それでの今があいつの限界だよ。もう、これ以上に伸びるってことはない。

 俺が本気になれば余裕だね」

「アンタの本気、まだ見たことない。

 じゃ、頼むわ。

 楽しみにもしてないけど、ヨシフミくん超え、見せてね」

 そう言い放つと、瑠奈、さっさとこちらに向かって歩き出す。


 とっさに僕、身体をまた霧にして、瑠奈をやり過ごした。

 瑠奈、振り返りもせずに教室に向かって歩いていく。


 不思議だよねぇ。

 なんで、女子の中でもあんなに小さな瑠奈が、いつもあそこまで強気なのか。

 もしかしたら、日々、強気の素とかご飯に振り掛けて食っているのかもしれないし、強気の国から来た人なのかも。


 で、振り返って見てみれば。

 荒川が、僕への呪詛を吐いていた。

 チビで、湿気たヤツで、居眠り魔で悪かったな。スクールカーストだって、お前よりは下だろうさ。全部、聞いたよ。

 聞いたとも言えないけどな。

 マジで傷ついて、思わずため息吐いたけど、とりあえず午後は覚えていろ、だ。



 午後3時頃。

 体育祭、最後のプログラムのクラス対抗リレーが始まった。

 この学校の体育祭で、一番のイベントだ。

 一組は、陸上部が多いから、あまりに差がつけられると、どうにもならない。僕が走り出す前に一組がゴールしていたら、それこそおしまいだ。


 だから、僕、言ったさ。

「アンカーの僕までの間に、トラック4分の1までの差だったら、相手が誰でも抜く。

 そこまでの差は、絶対キープしてくれ!」

 ちょっと、カッコつけ過ぎかもしれないけれど。

 そして、まだ疑いの眼差しの方が多いけれど。


 そして、荒川、お前バカだろ。

 瑠奈の言われたことを根に持っているんだろうけど、盛大に墓穴を掘ってくれた。

「居眠り魔は信用できないから、俺がいくぞ!」

 だって。


 僕、さっそく便乗したよ。

「そうだな、頼むよ、荒川くん。

 クラスのみんなで、みんなのために!」

 ふふん、天然の振りして話の筋を変えてやった。


「おおおおーうっ!

 ヨシフミ、がんばろーぜ!」

 クラスのみんなから声が上がる。

 悪いな、荒川、悪意を利用させてもらったよ。

 人ってのは、器の大きい方に付くんだ。

 僕はヴァンパイアだからな。悪意の方が美味しいんだよ。

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