第18話 儀式に参加するヴァンパイア


 まずは、笙香しょうか生気プネウマの活性化。

 コレに関しては笙香、厚かましくて、図々しくて、ふてぶてしくて、たくさんあるから、問題ない。

 で、その生気プネウマを使って笙香の内蔵を包み、さらに永続的に包まれ続けるように生気プネウマが供給され続ける経路を作る。……んだそうだ。


 僕にはいろいろわからないけれど、フリッツさんがいろいろな文様や、儀式的な道具とか、理科の先生が見せてくれたライデン瓶っていうようなのとか、電気機器とか取り出して、準備は整った。


 リスクは当然ある。

 生気プネウマの暴走は、細胞の暴走である腫瘍よりもっとたちが悪い。そのリスクは常につきまとう。

 でも、今回はさ、得られるものの方が遥かに大きいよ。


 でもって、同席する予定だったという、この病気の権威のお医者さんという人も現れた。お医者さんっていうより、教授ってお呼びしないといけない人らしい。

 ただ、この人はこの場にはいないことにしてくれというので、名前すら聞けなかったよ。

 ってか、僕たちのやっていること、完全に医師法違反なんだそうな。だから、この場にいたと言うだけで、マジでスキャンダルになっちゃうんだって。

 ちょっと、ブラ△ク・ジャ△クに出てくるような状況かな、なんて思っちゃった。


 で、その教授も、セカンドオピニオンとしての意見を聞かせてくれた。

 結果はフリッツさんの診断と同じ。

 部位がよくないから、予後は極めて悪いだろうって。

 近いうちに血糖値のコントロールもできなくなって、「苦しみ抜いて死にますよ」って、本人が聞いていないからって直截的すぎるな。フリッツさんのほうが優しい言い方だったよね。


 願わくば、僕のもっている「因子」っての、うまく働いて欲しいよ。

 笙香が「苦しみ抜いて死ぬ」なんて、冗談じゃないからね。



 電気機器の三叉コンセントが差し込まれ、入れ子状に描かれた魔法陣のようなものが広げられ、くうくうと寝ている笙香がその中心にうつ伏せに横たえられた。

 そして、フリッツさんが短剣を持つ。

 ダマスカス鋼っていうのかな、2種類の金属が練り込まれたようなきれいな模様がついていて、見るからに切れそうなやつだ。


「東洋の知恵と西洋の知恵、同じく現代医学と伝統魔法医学、二元の合一をもって、新たなる道を開く。

 C.R.C.の秘術によって、その生気プネウマを形作り、この者の定められし時間に幾許かの猶予を」

 って、フリッツさんの言葉に合わせて、お姉さまが通訳してくれた。


 そして、次の瞬間……。

 フリッツさんの持つ短剣が、深々と笙香の背に突き刺さっていた。


 って、その短剣、「ひっこむやつ」じゃないよね?

 かちゃかちゃって引っ込んで、刺さらないおもちゃの短剣だ。そういうでなきゃ、死ぬよ、それだけでっ。


 思わず魔法陣の中に駆け込もうとした僕を、お姉さまが後ろから抱きとめた。

「あれは、C.R.C.が中東から持ち帰った神器。

 もう少し見てなさい」


 お姉さまの香り。

 それで、僕、少し落ち着いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る