第52話 性癖、目覚
で……。
僕、瑠奈が極端なまでに嫌がった理由がわかってしまった。
猫はね、猫ってやつは恥じらいというものがないから、尻っぽをぴんと立てて、人目にさらしながら歩くわけですよ。
なにをって、ほら、男の子ならボール2つを。女の子ならまぁ、ごにょごにょを。
それに対して、狼って尻尾を立てないんだよね。つまり見えないようにしてる。でも、悲しいほど尻っぽの毛が燃えちゃっていると、ちょっと尻っぽが揺れるだけで……。
まして、走ったりすると……。
いや、ほら、僕は真祖のヴァンパイアだから、まぁ、まだ人間のには興味あるけど、狼のにはべつに、ねぇ……。
でも、それと瑠奈の心情は当然別なわけで、こちら向きに走ってくるのはいいけど、走り去るのはどうしてもできなかった。
狼のは別に見ようとも見たいとも思わなかったけど、あんまり恥ずかしがられると僕が変な性癖に目覚めちゃいそうだよ。
そこで僕たち、困ってしまって無言になってた。
それでも走れと言うほど僕も
瑠奈ももう嫌だって座り込んじゃったし。
久しぶりに日本人の姿でほっぺた膨らまされていると、その理由と重ね合わせてその顔を見ていると、拙者これは萌えますなぁ。うほほほ。
って、これ、中学の時からの同級生の綾田の口調だ。
綾田は、僕の催眠が効いて勉強を続けた結果、本郷と一緒に同じ高校に来ているんだ。本郷はもともと勉強できる方だったけど、綾田は奇跡みたいもなんだったんだよね。
ともかくまぁ、喜んでいてもしょうがないので、走り寄る姿から走り去る姿を想像して敵には見せるしかないって思っていたら……。
「あんたたち、隠れてなにをコソコソやってんの?」
って厳しい声。
あーあ、お姉さまにバレちゃったよ。
で、お姉さま、迷うことなく瑠奈の前に立って、ほっぺたをぎゅーって引き伸ばした。
「顔が伸びるーぅ!」
「白状しなさい」
瑠奈の悲鳴を無視して、平然とお姉さま、尋問を開始した。
結局、白状したのは僕。
瑠奈がわたわたと藻掻いているの、見ていられなかった。
くっ、ずるいぞ。僕なら拷問されても耐えられるのに、瑠奈を責めて、それを見せつけるだなんて。
これ以上見ていたら、僕、さらにもう一つ新しい性癖を手に入れちゃいそうだったんだ。
そしたら、お姉さま……。
「馬鹿じゃない?」
って一言。
「なんでだよ?」
思わず僕、激しく聞いちゃった。
そしたら……。
「薬で、死ぬのが最大の喜びになっている連中は、サメに襲われてもまともな反撃なんかしないかもよ」
えっ!?
「死人は落とし穴に落ちても、蛇もなにも怖がらないよ」
ええっ!?
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