第29話 改造手術を受けるヴァンパイア


 お姉さま、続ける。

「アンタはそのままでいなさい。

 無敵の真祖のヴァンパイアは、その性癖のままの方が私たちは安心していられるから。

 これで、人を虐げることに喜びを感じるなんてことになったら、目も当てられないところだわ」

 ……くっ、僕の性癖、そんなふうに評価されるなんて。

 ちっとも嬉しくないぞっ。


 そこで、フリッツさんが口を開く。

 僕のやっつけられた表情を見て、話が一段落したと見抜いたんだろうね。

 なんか、とっても悔しいけど。

「ヨシフミの施術についても成功を確認してから国に帰りたいから、今日の午後にでもどうか? ってさ」

 って、お姉さまが通訳してくれた。

 もう、僕、二つ返事でオッケーだよ。

 見てろよ、成長して見返してやるからな。600歳がなんだ、僕は一万年だって生きられるんだからな。



 話が終わって。

 瑠奈るいな笙香しょうかの勉強にも付き合って。

 フリッツさんのおごりだと聞いた上で、お昼は出前をとることになった。

 僕はざるそばを付き合ったけど、お姉さまと瑠奈は焼肉丼。やっぱり肉食獣なんだなぁ。

 フリッツさんはカレーうどん。カレーって単語を知っていたらしくて、迷うことなく頼んでいたけど、届いたものを見て凍りついてた。「カレーヴルストと違う」とか呟いていたけど、僕はそっちの方を知らないよ。

 笙香は、天丼とカツ丼と親子丼にたぬきうどんを付けて食べてた。ったく、太らないのが不思議だよ。「2週間ほど食欲があまりなかったけど、取り戻した」って、そもそもアンタ、食欲があまりなかったって時期でも、普通の人以上に食べていたよね。

 もう、こいつ、絶対死なないよなー。



 ともかく、お昼を食べたあと、大あくびしながら笙香は帰っていった。

 次は僕の番だ。

 病院でするような検査はなかったけど、僕の身長と体重は測った。この数字が増えてくるようならば、施術は成功ってことになる。


 そして、フリッツさんの目が据わった。右手には短剣が握られている。

 いきなり、もう、かい?

 笙香のときは、もっといろいろ検査とかしたじゃん。

 なんで僕のときは、そんな気軽に施術できるんだろ?

 まさか、僕はどうせ死なないから、なにしてもいいとか思ってないよね?


 なんて、僕の訴えなんか聞いちゃもらえなかった。

 短剣を振りかぶるフリッツさんが、マジに怖い。

 くるりと背を向けて逃げ出そうとした僕の前に、瑠奈が立ちふさがった。もちろん、ジェヴォーダンの獣の姿で、だ。

 すかさず、身体を霧にしようとした僕。

「ぅわうぅーーーー!」

 瑠奈がいきなり吠えた。


 びっくりした僕は、一瞬、霧化するのが遅れた。

 その一瞬の間に、僕の背中に短剣が潜り込んでいた。


 全身の細胞が、灼かれるように痛む。

 全身を、60,000人もの人間のさまざまな思いが、無念と欲望が駆け抜ける。

 身体の中枢とそれ以外の場所との境に、生気プネウマの障壁ができあがっていくのがわかる。


 僕の身体は、作り変えられた。

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