第61話 捕獲、詐術


 連中、膝の周りを泳ぐサメに怯えることなく上陸してくる。

 ふふん、怖がらないのはさすがだけど、見えているんだね。

 これで僕、いろいろが大幅に楽になったよ。


 お姉さまは、海岸で高いびきをかいて寝ている連中の監視。

 あからさまに「もう敵対しない」っていう態度を見せているけど、だからと言って信用はできないからね。ただ、本気でこのまま朝まで寝ていて欲しいよ。

 だって、お姉さま相手に戦いを挑んたら、間違いなく容赦というものがない。何人も殺されるかもしれない。なんかさ、今回いろいろ話している中で、やっぱり底が見えないって気がしたんだよ。


 きっと、一度はヒトのことをご飯だと認識していた結果だろうね。

 それがここまで丸くなったのは、600年も生きてる年の功なのか、クリスチャン・ローゼンクロイツの魔法の凄さなのかはわからないけれど。

 ただ、僕が本気で戦っても、まだまだ勝てる気はしないやって思ったんだよ。



 上陸してきた敵は7人。

 僕と瑠奈は、その7人を追走する。

 海岸から島の中央に向けて、急と言うほどではないけど、なだらかとも言えない斜面が続く。

 彼らは、島中央の展望台まで一気に登って、周囲を窺ってる。

 僕たちは息を殺して、次の彼らの行動を見守る。


 この島で、たくさんの捕虜を隠しておける場所は限られている。

 だから、そこをしらみつぶしに探すはずなんだ。

 で、彼らは海岸にある洞窟より先に、島中央を走る石垣で囲まれた低い通路に向かって降りていく。

 まぁ、順当な選択だ。



 ただ、そこから先で、僕たちが驚くことがおきた。

 石垣に挟まれた通路で彼ら、いきなり足取りが自信に満ちたものになって、迷いもせずにまっすぐ捕虜を閉じ込めてあるレンガ造りの施設の前に集合した。

 なんでって、不思議がる間もあらばこそ、封じられていた入り口を破って中に入っていく。


 これには僕、相当に焦ったよ。

「ニオイよ」

 と、瑠奈が僕にささやく。

「薬のニオイ。

 ヤク中は薬には敏感だから……」

 なるほどなぁ。

 たしかに言われてみれば、ニオイはしていたよ。彼奴等の基地にも、そのニオイは漂っていた。そうか、そんなの考えてみもしなかったなぁ。


 さて、僕の出番だ。

 身体を霧化して、連中と一緒に部屋に入らなくちゃ。


 最後の2人が歩哨に立ったけど、瑠奈が飛び込みざまにその2人を喰わえ上げ、奥の部屋に放り込んだ。

 同時に僕、連中の感覚に介入して、ドアを見えなくして方向感覚を狂わせてやった。

 これで、捕まえた。



 瑠奈は、入り口から腰に手を当てて連中の行動を見守る。ちなみに、ドアは開けっ放しだ。

 僕もその隣で、高みの見物を決め込む。

 とはいえ、きちんと仕事はしたよ。


 僕も瑠奈も、彼らが何語を話しているかすらわからなかった。

 でもやりたいことはわかった。

 だから僕、ところどころで、彼らの考えていることがうまく行ったシーンを見せてやった。

 さあ、最後まで騙し通せるかチャレンジだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る