第41話 見込、上陸


 自分たちは、編上げ軍靴を履いており、踏み抜きには一般の革靴よりは強い。

 だが……。

 本当にマキビシだろうか?

 それだけで大の男があそこまで怯えるものだろうか?

 マキビシに毒が塗ってあったとしても、ああまで動揺するものだろうか?

 このまま上陸作戦を実行して問題ないものだろうか?

 そして、先行して上陸した連中があまりにあっけなく撃退されたため、軍用犬への対策も結果的に何もされなかった。


 もはや船を桟橋につけることはためらわれたし、岩場では揚陸が難しい。砂浜もおそらく何らかの罠が仕掛けられている。

 迷いは行動の遅れと焦りを呼び、行動の遅れは迷いと焦りを生む。

 そして、焦りは些細なきっかけを与えられたことで、無謀な決断を産み落とした。



「尻尾が見えます」

 報告が上がってきた。

 微光暗視装置は、近赤外光までカバーしている。

 動物の体温からその体の一部を拾えたのは、偵察役の優秀さを示すものだ。


「もう一度確認をしろ。

 特に、ハンドラーはいないか、他の兵士はいないかよく見ろ」

「いえ、いません。

 赤外線で確認しても、熱源は犬だけです」

 これは、チャンスだ。


 揚陸時は、どんな作戦でも被害が大きくなるものだ。

 なのに、待ち伏せされていないということは、無傷で上陸ができるということだ。加えて、軍用犬がいるところに、マキビシなどの罠はない。


 なので、あえて軍用犬に向けて強襲揚陸を行えば、一番安全とすら言える。腰の深さの海から徒歩で上陸するのであれば、銃火器の使用に問題はないのに、犬は無力化される。軍用犬が向かってくれば、複数の人間でアサルトライフルで弾幕を張る。水中での犬は陸上でのような脅威にはなりえない。確実に仕留められるのだ。

 そして、軍用犬が向かって来ずに逃げるようならば、後を追ってハンドラーを始めとする敵部隊に行き着く。捜索の手間が省けるのだ。

 

 これは、どこまでもいい案に思えた。


 すでに、事前ブリーフィングと作戦は異なってしまっている。

 なので、再度部下たちに自分の考えを伝え、ぶっつけ本番での作戦実行を求めた。

 部下たちの反応は好ましいものだった。


 軍用犬を最初に始末してしまえば、敵の索敵能力は大きく削減される。不確定要素が減るのだから、勝利条件を満たす可能性が高まる。

 そして、人間同士の限られたフィールドでの森林戦であれば、今までの練度が物を言う。ブービートラップも仕掛けられているだろうが、彼らの練度を持ってすれば躱すことも容易だ。

 部下たちもみな、これが実行可能な作戦と判断しているようだ。勝利の見込みは士気が上がらせチームプレイを上手く運ばせる。

 

 東南の砂浜が終わり、磯になる辺りに船をできるだけゆっくりと寄せる。

 エンジン音を響かせ、軍用犬の注意を引いてはならないからだ。

 いい深さになった。

 ハンドサインが交わされ、先頭になった男が船から飛び降りた。


 ずぼっという音がする。

 深いのだ。ただ、それでも海水面は胸ほどだ。

 バディの男が続き、さらに残りの者も飛び降りた。

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