第26話 説明を受けるヴァンパイア


「診た範囲、異常はないようだね。

 少なくとも、午前中いっぱいぐらいはここで遊んでいくんだろう?

 その間はここにいるから、異常を感じたら言うんだよ」

 フリッツさんの言葉に頷く笙香しょうか

 とりあえず、治るとかそういう話は抜きにして、思わぬ副作用みたいなものは今のところはなくて済んだみたいだ。

 ということは、笙香の内臓の1つは、無事にヴァンパイアになったってこと。


「午前中、遊ばないよ」

 と、これは瑠奈るいな

 ちょっと不吉な宣言。

「そもそもさ、一緒に勉強するって話で遊びに来たんだよね。

 それなのに、いきなり飲んだくれてさ。

 笙香、少しはアリバイを作っておかないと、もう遊びに来れなくなっちゃうよ」

 ……ああ、そうだったね。

 僕も、墓石との間で口裏を合わせないとだよ。


 それにさ、一週間後、もう一度笙香には泊りがけで来てもらわなきゃなんだ。精密検査が必要だからね。そのためにも、今回のことで禍根を残しちゃダメだ。

 こんなに勉強できて問題集もできたんだよって、見せびらかすくらいアリバイを作っておかないとね。



「じゃあ、ルーナ、あんたは勉強頑張りなさい。

 ヨシフミ、きみはこっち」

 僕はお姉さまに手招きされて、フリッツさんと3人で部屋の片隅に移動する。

 いよいよ……。

 条件を詰めなきゃなんだ。


 まずは、フリッツさんが細かい説明をしてくれた。

「背を伸ばす、すなわち真祖のヴァンパイアを成長させることについて、だけど。

 これについては、他の生物におけるエイジングと同じものではないということを先に言っておきます。

 細胞分裂のたびに、テロメアという遺伝子配列の繰り返しが短くなることが知られているけどね、真祖のヴァンパイアの遺伝子は、何度細胞分裂を繰り返してもなんの変化もないんだ。テロメアが減ることはない。

 その不変性プラス強い回復力こそが、ヴァンパイアの不死の秘密なんだよ」

 すごいなぁ、僕以外の真祖のヴァンパイアで、もうそこまでの研究がされているんだ。


「だからね、先ほど使った、生気プネウマが練り合わされて作られた短剣で、各細胞の遺伝子のテロメア数を、自身に対して設定値に誤認させるんだよ。

 つまり各細胞の年齢は、好きに設定できる。

 ただ、問題はここからだ。

 思春期の細胞の年齢だと、そのままどんどん細胞数自体が増えて、身体が大きくなる。でもね、一度増えた身体の細胞数を減らすことはできない。

 つまり、赤ちゃんには戻れないんだ。

 13歳から30歳に身体を大きくさせられて、その身体の大きさのままであれば、30歳から20歳に戻ることも可能だけどね。

 まぁ、13歳から20歳くらいまでは普通に成長する設定、20歳から60歳は可変にすればいいのだろうけど、ヨシフミくん自身はそこはそれで構わないんだよね?」

「はい。

 子供には戻らなくていいと思っています」


 僕、そう答えたよ。

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